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第5回秩父宮記念山岳賞の表彰

   副会長 長尾悌夫

 第5回秩父宮山岳賞には、4件の推薦候補業績があり、審査委員会は慎重に審議した結果、宮森常雄氏の「カラコルム・ヒンズークシュ登山地図」が受賞にふさわしいとの結論に達した。これを木下是雄審査委員長から会長に推薦し、11月13日の理事会で決定をみた。

 宮森氏は東京農業大学卒業後、1967年、同大学ヒンズークシュ学術調査隊の隊長としてパキスタン北西部チトラールに入域したが、同地方の資料、地図ともに極めて乏しいことを知り、以来登山者のための地図作成を志し、長年にわたって情報・資料を収集・整理して2001年カラコルム・ヒンズークシュ登山地図を刊行した。

 この間、同氏は1970年に第1回「日本ヒンズークシュ会議」を主催し、以来その中心メンバーとして活躍を続け、登山地図の作成に情熱を傾けた。

 本地図は、ヒンズークシュ西端の東経71度から、カラコルム東部の東経78度までを含むB全版、縮尺15万分の1、5色刷、12図葉にバルトロ氷河の詳細図、縮尺7万5千分の1を加えたもので、表記は英文である。

 本地図の作成は、登山界に裨益するところが甚だ大きく、同賞に値するものであるが、出版後若干の誤りが指摘されており、審査委員会としては速やかに是正されることを要望する旨付記された。

 年次晩餐会での表彰に先立ち、当日別室で宮森氏自身による記念講演があり、冒頭、この地図の完成は自分一人の力ではなく、多くの方々の協力があったと感謝され、刊行に至るまでの苦労を淡々と話されていたのが印象的であった。

秩父宮記念山岳賞を受賞して

     宮森 常雄

 このたびは、名誉‥ある秩父宮記念山岳賞をいただきまして大変光栄に存じております。

 受賞の対象となりましたヒンズ−クシュ・カラコルム登山地図は、先輩各位をはじめ多くの登山隊、トレッカーの方々や仲間たちのご助力による賜物であり、また、採算度外視でご協力下さった出版社のご配慮により実現しました。いまだに拙く未完の登山地図ですが、思いがけずご評価をいただき、関係者の皆さまには、紙上をお借りして心より御礼を申し上げます。

 私は、1967年に初めてヒンズークシュに入る機会に恵まれましたが、当時、カラコルムはまだ解禁以前であり、折からのネパールの登山禁止は、多くの登山隊をヒンズークシュ山脈の核心部に集中させることになりました。入手できる情報はあまりにも乏しく、研究にもこと欠くありさまでした。

 70年、情報交換の場として会議長・吉沢一郎、副会議長・深田久弥、諏訪多栄蔵の3氏を囲む第1回ヒンズークシュ会議が磐梯高原で開かれましたが、これを機会に出席の皆さまに協力を依頼してH・K全域の作成に着手しました。

 記載の山岳の分類は、1936〜7年にイギリスで開かれ、インド測量局長官の承認をうけたK・メイスン教授主幹のカラコルム協議会報告に基づく分類法ですが、新しく発見された事績に一部は分類法を変更する必要もありました。

 峰の経緯度はインド測量局や先駆者の測定によりますが、公認高度以外の峰は、近年測量されたイギリス、ドイツ、イタリア、中国、日本隊その他の結果もとりいれ、最近発見された約6000メートル以上で未測量の無名峰はおよそ600峰におよびますが、混乱をさけて研完誌には概略の経緯度と高度を記載しております。

 河川、氷河の状況は多くの登山隊、報告、書籍等の写真から読み取り、知り得るかぎりの段丘、水塔、氷曝、モレーンなどを表現し、既登、未登も色区別しました。

 作業はさらに継続中です。今後とも登山隊各位のご助力をお願いできれば幸いです。

山692(2003/1月号)


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