科学委員会
KAGAKU     山岳賞       


 山岳賞INDEX

第3回秩父宮記念山岳賞の表彰

副会長・竹内哲夫

 第3回秩父宮記念山岳賞は、大蔵喜福氏の「マッキンリー通年気象観測の成功とそれを通じての若手登山者の育成」に授与することが決定し、去る12月2日の年次晩餐会で会長から表彰状と副賞金20万円を添えて表彰式が行われた。

 本賞の選考を行うため、審査委員会は3件の候補業績の中から、数回にわたる委員会の審議の結果、本業績が最も授賞にふさわしいとの委員全員の一致した結論により、木下是雄審査委員長から会長へ推薦し、11月8日の理事会で決定を見た。

◎表彰に値する業績は次のとおり。
1、登山者の立場から極寒の高山に おける烈風の実態を突き止める必 要を認識して、マッキンリー(6194メートル)の山頂近くに、通年稼動の無人気象観測・自動記録装置を設置した。この装置の設計は、風の観測に重点がある。
2、装置の保守・交換のための登山は、事実上年1回に限られる。第1次1990)〜第4次(1993)の登山で設置した装置には 越年中に破損・故障が起こったが 改良を重ねた結果、第5次の設置 以降のものは順調に働き、第10次までの観測記録が得られた。
3、毎年の保守・交換のための登山を通じて若手登山者を育成し、有 為の人材を育て上げた。これらの毎年次登山はすべて無事故裡に完 了した。
 以上が表彰された業績の概要であるが、設置された観測機器は、アラスカ大学の「国際北極圏センター」に引き継がれ、分析と同時に機器の性能を高め、気象台、デナリ国立公園に人工衛星経由で送信され、即時・継続的に登山者に役立たせるよう計画が進められている

 また大蔵氏は、11次にわたるマッキンリー登山に当たり、現役学生延べ38名を含む78名の主として若手登山者を同行し、氏のリードによる登頂を果たしている。これらの若手はその後、ナムチャバルワのほか、数次の日本山岳会をはじめ大学山岳部などの海外登山に極めて大きな役割を果たす結果をもたらした。

 なお、年次晩餐会での表彰に先立ち、当日別室で、大蔵氏自身から今回の表彰業績についての発表会があり、多数の聴講者におおきな感銘を与えた。

激励は新たな出発日に

大蔵喜福

 ミレニアムの年次晩賢会において、栄誉ある秩父宮記念山岳賞をいただき、大変光栄に思います。
 すでに20年近く前になりますが、先輩の加藤保男さんが冬期エヴェレストに向かうとき、何が一番問題か話したのが、このマッキンリー気象観測登山の、そもそもの始まりでした。「寒さより風だね」という危惧が、その後現実になってしまったこと、そして植村直己さんや、一緒にヒマラヤを登った山田昇さん、小松幸三君、三枝輝雄君らの悲劇が、大きな後押しとなりました。

 まさか11回も続くとは、私自身が一番驚いています。継続は力といいますが、継続させてくれた日本山岳会の存在そのものがありかたいと感謝しています。ですから、すべての会員に厚くお礼を申し上げます。

 さて、10年ひと区切りで栄誉をいただきましたが、私は授賞日が新たなる始まりの日と理解しました。研究はまだ終わっていません。今後、気象観測はアラスカ大学国際北極圏研究センターに引き継いでもらえることになり、一緒に活動していく予定ですが、これからの研究の行方と私自身の生き方をも問われる出来事と肝に命じています。

 マッキンリーの10年は、私を支え育ててくれた仲問たちがいなかったら達成できませんでした。最大の感謝はマッキンリーの山仲間70余人に捧げたいと思います。

*報告諭文(マッキンリー気象観測機器設置登山隊『全11次におよぶ登山記録と学生等青年隊員の総合的登山能力育成の報告』発行=科学委員会マッキンリー気象観測プロジェクト A4判178ページ 頒布価格2千円)については事務局へお問い合わせください。

山668(2001/1月号)


UP

copyright(c) KAGAKU(y-kondo)