会報3月号より


志水哲也・編
『山と私の対話―達人の山旅1』
高桑信一・編
『森と水の恵み―達人の山旅2』

この2冊は、みすず書房から「達人の山旅」シリーズとして同時に刊行されたものだ。
『山と私の対話』は、編者を含めて14名、『森と水の恵み』も同じく16名の文章を集めたアンソロジーで、ほとんどが書き下ろしである。
前書は「ソロクライマーとして」と「アーティストとして」の2部構成になっているのが特徴。「自然に対し、また自分に対し、真摯に一対一で向かい合う」厳しく孤独な精神の在りようは、両者に共通したものと編集は言う。方向性を登山から写真にシフトしている、編者自身の心象が垣間見える。
『森と水の恵み』には、自然に抱かれて生きる幸せが綴られる。過酷な自然に対峙しながら、著者たちの文章はおおらかでほっとする。根底に流れるのは、「森と水が人々の暮らしと文化を支え」「人は自然が産み落とした申し子」であるという、編者の祈りにも似た優しい眼差しである。
アンソロジーを編む作業には、編者の心の持ちようが意外に色濃く表れるようだ。自分自身の心の内を振り返りながら読むのもよいかもしれない。
30名の著者の紹介は紙面に限りがあり、割愛させてもらう。
(三好まき子)

2005年8月みすず書房刊
四六判 236n定価 2100円

2005年8月みすず書房刊
四六判 260n定価 2100円


佐伯邦夫・著
『山との語らい』
―剱岳のふもとから―

本書は1994年1月から同年10月まで、「読売新聞」北陸支部版夕刊に連載されたものをベースに少し書き足して63本のコラムとし、四季に分け「歳時記」風に並べた写真とエッセイである。主として北アルプス北部の、立山剱岳、その周辺の山々、黒部をへだてた後立山白馬岳周辺の山々を取り扱っている。
著者は、その山麓魚津市で生を受けた。これらの山々は、いわば「背子の山」とその続きということになる。現在も魚津市に住み、周辺のこうした山々を歩き続けながら、写真とエッセイを発表してきた。
当然ながら、剱岳を題材にした項目が多い。
〈剱岳は、(中略)どこから眺めても、高い緊張感でもってそびえ立っている。「すぐれた彫刻は、見る人を一巡させる。すぐれた山もまた……」と言った人がいる。したがってカメラを構える位置を選ばせ無いのがこの山。しかるに幾つかの限られたポイントに人が雲集するのはなぜ? 本書はそうした作を混入させる必要のなかったことを秘かに喜んでいる〉(あとがきより)
こんな考え方で撮られた写真は思わず地図を出して確認をしたくなる一枚一枚である。
一枚の写真に一文の歯切れのよいエッセイが書かれている。そのため、ある部分では解答を与えてくれたり、ある部分ではますます想像をかきたてられたりす好書である。    
(茂見 猛)

2005年5月山と溪谷社刊
215ミリ×200ミリ143n定価 1575円


寺田政晴・著
『夜景を楽しむ山歩き』

まず、表紙の写真が美しい。こんな景色に出会えるなら、夜の山歩きも楽しいかもしれない。
ページを開くと、最初は「解説編」。夜景鑑賞、天体観測、夜に出会う動物など、夜の山の楽しみ方から、それにともなう危険、そのための準備や装備が説明される。
次に「ガイド編」では、東京周辺の14座が紹介されている。たとえば「小仏城山」の項では「ヘッドランプを消して目をこらしてみたい」「クロマドボタルの発光である」など、夜の山歩きならではの醍醐味が語られる。さすが東京周辺の山のガイドブックを多数手がけている、著者ならではの丁寧な紹介である。
最近の山歩きは早い時間の下山を勧め、夜道を歩くなどもってのほかという風潮で、山小屋のトイレにしか出番がないというのでは、せっかくのヘッドランプが泣こうというものだ。
「自己責任における行動、非常時の対処についての能力が備わっていることが前提条件である」という著者の言葉を肝に銘じながら、夜景の山にトライしてみたい。まずは、表紙の「三ツ峠山から見た吉田の火祭りと富士山」を見に。
(三好まき子)

2005年11月東京新聞出版局刊
B5判 142n定価 1575円


寺田和雄・著
『山憶(おも)い 都(ま)市(ち)想い』

本書は、サブタイトルの「わがふるさと町田をめぐって」の示すように、東京の南西に位置して、JR横浜線と小田急線が交差する町田市が背景であり、舞台となっている。
町田は、昭和30年代に団地、ニュータウン構想のもとに、一大ベッドタウンとして変貌した地域である。著者は、ここに生まれ育ち、市長を16年間務めた。若いころは登山に熱中し、文学をこよなく愛し、書をよく読み、文を書く文人市長である。市の広報誌等に発表してきた、市政関連の文章のほか、町田と周辺を巡る文学的史跡、文学者の足跡をたどる文章、登山の回想などがまとめられている。
内容は多岐にわたっているが、小島烏水の足跡をたどった「相模野」などの2編、水彩画家・大下藤次郎礼賛と「武州七国峠」、詩人・八木重喜吉追想は、ひときわ思い入れがこもっていて、味わいが深い。
この種の本は、あれもこれも収録したくなることだろうが、大森久雄氏の名編集ぶりで、49編は4つの章立てで、読み進みやすく整理されている。また小泉弘氏の装幀によって、清楚な仕上がりになっている。作り手に恵まれた幸せな本である。    (松沢節夫) 


2005年12月茗溪堂刊
四六判 250n定価 1890円