会報12月号より


山と溪谷社・編
『目で見る日本登山史』


 『目で見る日本登山史』と『日本登山史年表』の2冊からなり、江戸後期から本年までが納められている。どちらも類書を見ない。
前者は時代を大きく4つの部に区切り、それを26の章でくくっている。章の切り口は「大正登山ブーム」とか、「昭和前期の登山事情と出版」などユニークなものもある。総説によると原資料を重視し、記録を発掘する方針との説明がなされる。各部の文頭にはほどよい長さの時代解説があって、大きな流れを理解させる。本書の編纂は、登山史に幅広い薀蓄を持つ編者に負うところが大きい。
たぶん、まず骨格づくりのあと、必要な写真の収集になったことだろう。文字ならコピーでもできる。その苦労は、巻末の写真等提供者の数を知れば納得する。探し出すことを考えても、気が遠くなってしまう。ビジュアルという点では、見るだけでも楽しめる。しかし、写真はそれほどまでに真実を語り、歴史的価値で読者に迫る。全ページが2色刷りで、写真の濃淡も強調された。
ひとつだけ、77ページの日本山岳会発起人の説明は、左右を入れ替えた方がよかったと思う。
『登山史年表』の方も、よく拾い上げたものである。日本全国と海外遠征だから、その量の膨大さは執念ともいえる。労作程度の言葉では、とてもいい尽くせるような範囲ではない。本格的な1書である。「昭和〈戦後〉」編のバリエーション開拓や、「海外」編の遠征登山などは、年次を追うことで筆者でもわかりやすい。
登山史の基幹文献として、重用されることを疑わない。
(三井嘉雄) 
                 
2005年11月 山と溪谷社刊
『目で見る日本登山史』352n『日本登山史年表』271n 
定価8190円 

菊池俊之・前之園多幸・著
『クライマーズ・ボディ』

 従来、フリークライミングに最も効果のあるトレーニング方法は、 クライミングそのものをすることであるといわれている。確かに、その通りであろう。しかし、より高きを目指してひたすら登り続けても、能力のプラトーをいつまでたっても突き破ることができなかったり、クライミング特有の手指や肩のスポーツ障害等にかかり、悩むことはよくあることだ。
この本は、こんなトラップに落ち込むのをできるだけ避け、より高い安定したクライミングの能力をどのようにして獲得するかに応えている本である。
プロローグは、今もなおこの世界でスーパースターとして君臨し続けている平山ユージとの対談から始まる。ここでは難度の高い挑戦をする前の、彼のトレーニングやコンデショニングの方法が語られている。トレーニングの量に関してはとても及ぶところではないが、根底にある考え方などは一般のクライマーにも参考になる。
本文は3部に分かれており、第1部では、トレーニングの方法やその意義を理解する上に必要な筋肉と、働きについての解説がされている。その内容は、プロのトレーナーや理学療法士が学ぶのと同程度の高いレベルとなっている。
第2部では、クライミングをスポーツと考えたとき、その特性を分析し、どのようなトレーニングが有用かの説明をしている。いわば、急がば回れのステップアッププログラムの考え方である。人工壁での重視すべき課題や、その取り組み方などに触れている。
第3部では、クライミングによるスポーツ障害について、クライミングの豊富な経験をもつ整形外科医の前之園多幸が担当している。外傷学の基礎、障害が起こりやすい部位の解剖学など、ここでも理解に必要な基礎知識の解説から始まっている。障害が起きるメカニズムと、それを起こしやすいムーブとの関係などは、クライミングをよく知る整形外科医でなければ記述できないところである。さらに障害を如何に予防するか、応急処置、医者へのかかり方などにも触れている。    
(伊藤英弘) 

2005年7月
東京新聞出版局刊 A5版 192n 定価1785円

 
村口徳行・著
『四度目のエベレスト』

 ドキュメンタリー番組で、クライミングシーンを見ながらふと思う。これを撮影しているカメラマンって、どんな人なんだろう。
著者は、その映像カメラマンの村口徳行。4度のエヴェレスト登頂は日本人で最多。渡邉玉枝・三浦雄一郎両氏のエヴェレスト登頂への同行で大いに注目された。
大学山岳部在部中、8ミリフィルムで登頂記録を撮ることに熱中。卒業後はフリーのカメラマンになる。時間が自由で、山の撮影でトレーニングもできると考えたからだ。
初めてのヒマラヤ、ヒマール・チュリでは、体調を崩し「あらゆる気力がウンコと一緒に流れてしまう」さんざんな体験を味わう。ドキュメンタリー「チョモランマの渚」の撮影中には、イエローバンドで化石を探すうちに登頂してしまう。などなど、生き生きとした言葉でエピソードが語られる。「どうした?」「頂上についてしまいました」のやりとりの場面では吹き出してしまう。なんだか「高所カメラマン青春記」といったふうだ。
一方、仕事の場としての山は、「もう一度お願いします」が通用しない世界。「登れなかったので撮れませんでした」では話にならない、特殊で厳しい世界であることが改めて実感させられる。
書き下ろしの文庫本なのも、若い読者には手頃。ジーンズのポケットにでも入れて読んで欲しいと、著者も思っているのではないか。
(三好まき子)

2005年7月
小学館文庫判 221n 定価680円