会報9月号より


大島亮吉・著/大森久雄・編
『山 紀行と随想』

 平凡社ライブラリーは、山岳名著といわれる本を手頃な体裁と価格で、私たち読者に届けてくれる。そのシリーズから新しく登場したのが本書。
 大島亮吉は1899年生まれ。慶應義塾山岳会に所属し、大正後期から昭和初期にかけて積雪期登山・岩登りの先駆的な活動をする。
 彼が伝説的に語られ、ファンが多いのは、28歳の若さで前穂高岳から墜落して死亡したことに併せ、死後に残された膨大な文章の、その幅広さと瑞々しさにある。編者はその魅力を「文武両道、和魂洋才の山の先蹤者」と位置づける。
 大島が若くして亡くなったため、文章が本の形で世に出たのは(会報に発表したものを除いて)すべて没後である。本書は、仲間たちの手で編集された『山 研究と随想』をベースにしているが、随想の部分が大幅に差し替えられ、編者曰く「大島の持つ穏やかで優しい世界」の真髄を届けてくれる。
解説の中で、生前の大島の姿が語られる。人一倍精力的に山に登り、西欧の登山文献を読みあさり、考える傍らから記録に書き留める――まるで早い死を予感し、生き急ぐかのようだ。そして、理屈っぽい面を見せるかと思えば、一方でロマンチシズムに走りすぎた、一種の「機能不全」をあちこちで起こしたままの文章が残される。
 ところで彼が天寿を全うしていれば、この生のままの文章の数々が、私たちの目に触れることはなかったかもしれないと考えると皮肉だ。実は、生のまま残された、若い大島の「機能不全」こそが、本書の魅力なのかもしれない。
         (三好まき子)
 
2005年7月 
平凡社刊 
HL判367n 
定価1400円
 

高桑信一・著
『古道巡礼』

 〈あるとき、地図に記されていない径と出会った。それは仕事道と呼ばれる暮らしの径だった。そういう径に出会うたびに、径の行く先が知りたくて,惹きこまれるようにして足を踏み入れるのが常だった。登山道という制約を嫌いながら、忽然と現われる暮らしの痕跡の山径に、たとえようのない親しみと興味を覚えたからである〉
(本書はじめにより)
 著者は、この親しみと興味を追求するために、テントと食料を背負って径を探し求めた。
 会津と越後に結んだ歴史の街道
八十里越=A津軽白神、マタギ道=A古代東北の謎を秘めた 仙北街道=A越後下田の砥石道=A山中に消えた幻の集落をつなぐ足尾根利山の索道=A首都圏の水瓶に残された奥利根湖岸道=A白湯山信仰の会津中街道=A電源開発の道黒部川日電歩道=A早出川に沿ってつづいた松次郎ゼンマイ道=A陸の孤島を支えた開拓の道北海道増毛山道=A海と山を結ぶ生命線だった米沢街道大峠の塩の道=A信仰によって結ばれた熊野古道小辺路=A一攫千金を夢見た鉱山の光と影の鈴鹿千草越え=A再び、八十里越の裏街道=c…以上14の径を分け入って、紡ぎ出されたルポタージュが本書である。
 少ない文献や古文書より得た資料、地元の古老から得た知識、著者の永年の道さがしの勘と想像力をもとに、これらの径を辿り、手作りの地図と大量の写真で追跡している。
 山頂をめざして登山道を歩く人々が普通であるが、径の概念を考えなおす一文である。著者にはまだ歩きたいと願っている径があるそうで、続編が楽しみである。
 辞典によれば「径」は「道」、「路」と記されるが、その使い分けに思いを込めて書かれている。巡礼者・高桑氏の心意気か。(茂見 猛)

 2005年1月
 東京新聞出版局
 四六版415n
 定価2100円

高澤光雄・編
『山の仲間と五十年』
―秀岳荘創業五十周年記念誌

 昭和20年代、日本に山道具の専門店といわれる店が、東京と関西に数店しかなかったころ、札幌に金井五郎氏が創設されたのが秀岳荘である。
 最初は内職だった縫製品が主だったが、その頃から北大山岳部との結びつきが大きかったようである。「私の店は北大山岳部に育てられたと、今でも信じています」と金井五郎氏は言っている。
また当時は、東京の岳人が日高の山、知床の山に行くにはアプローチに数日間かかった。秀岳荘が、本州からの岳人のデポの役目を果たしていた。北海道にありながら、全国的な山の専門店であった。
その秀岳荘が、昭和37年、PR誌として「山の素描」を創刊、題字は坂本直行氏が書き、編集は山口透氏である。伊藤秀五郎氏が「発刊に寄せて」で山の仲間の気軽な談話室≠ニ記しているが、15年間で通巻45号、執筆者は185名に及んでいる。今回の50年誌は「山の素描」が大いに影響している。
1部の「山の仲間」は、現在も秀岳荘と関係の深い岳人諸氏が、それぞれのテーマで執筆している。2部は「再録、山の素描抄」として、10氏の文を再録している。終わりに執筆者185人の総目録が記されている。3部の「秀岳荘50年のあゆみ」は、主として登山用具の変遷と、金井五郎氏の遺稿集である『秀岳荘史』。特に「門田のピッケル」三代記と、「ハガスキー誕生物語」は登山用具の歴史としては貴重な資料である。4部の「北海道登山史年表1871〜2003年」は、日本山書の会発行の「山岳研究」の平成4年版に、山岳団体等の協力で追加項目の提供を受け作成されたものである。
山の専門店の50周年記念誌としては、少なくとも初めてのことと思われるが、バラエティーに富んだ執筆者に驚かされた。
なお別冊として「山の素描」の執筆者たちとして編者が25名の執筆者の紹介をしている。
(茂見 猛)

2005年4月
秀岳荘発行
177n
定価1050円