会報6月号より


The Alpine Club・刊 
『THE ALPINE JOURNAL 2004』

グリーンランドで初登攀した雪壁上の写真が表紙を飾り、-裏表紙にはベネズエラの岩山から宙吊りになって懸垂下降をする写真、ページをめくればアンナプルナV峰の雪稜からの雄大な景観が目に入る。文中にも魅力的な写真が随所にあり思わず引き込まれページを進めてしまう。これがThe Alpine Clubの機関誌であり、世界の登山情報を集積した楽しく読ませる山岳情報誌だ。
巻頭では今回から編集責任者が交代したこと、写真が文章中に入ったので非常に読み良く、並みいる山岳関係誌の中で内容でも突出していると誇らしげに記している。
登攀、旅行、論点、随想、文芸、歴史、地域情報、書評などに分かれている。
「登攀」ではアンナプルナV峰南西稜、チベットのアルプスなどの新ルート登攀や初登頂などが11点あり。また03年夏、異常気象のアルプスで岩雪崩による下山ルート崩壊とヘリ救出大作戦の実態などが興味深い。
「旅行」」には中村保氏のイラワジ川源流の探索やカパディア氏の東部カラコルム、エリック・シプトンの息子ジョンによる父親の足跡を検証する山行などあり。
「論点」ではバルカン半島とカシミール紛争地帯の平和公園計画の早期実現を訴えている。
「随想」ではこれから50年後のK2、過密化のアルプスなど英国人の考え方の理解に役立つようだ。また英国における各登山クラブの発展史はわが国の登山界を考える上でも参考になろう。
「文芸」では1985年アンデスの遭難事故を著したベストセラー本の映画化で著書と共に世界的に好評を博している映画、日本題名“運命を分けたザイル”に関する2編、とくに遭難当事者が映画ロケのために現場を訪ねた時の心理状況など率直に述べている。
「歴史」では今まで恐らく邦文では見かけたことの無い、アンデスの女性パイオニア達(1903年〜50年)など6点あり。
「地域情報」には世界各地の03年の登山情報が70nにわたり記され、登山界に価値ある最新情報を提供している。
その他、エベレスト基金の交付を受けた隊の遠征レポートが30余点あり。羨ましいことに、この基金は既に1400件の遠征を支援している。英国山岳会の会務報告の中に70年ぶりにUIAAに復帰したとある。 

(南井 英弘)

424n Ernest Press発行 

成蹊踏會・編
『覆刻*記録・會報』

 旧制成蹊高校旅行部と成蹊踏會(同OB会)の『記録T号』(昭和2年)〜『同U号』(昭和11年)、『會報1合』(昭和7年)〜『同8号』(昭和22年、『記録4号』との合併号)を踏会の有志が覆刻した。
縦組、横組、謄写刷、活版刷と変遷していく。掲載された広告も時代を写している。
 大正14年から始まる活動は、成瀬岩雄、中屋健弌、三枝守維、高木正孝、渡辺兵力氏らの熱気と、おびただしい山行日数には圧倒される。
虹芝寮建設計画が熱心に論じられ、昭和7年に完成後は、谷川岳東面の夏期、積雪期の登攀に打ち込んでいく。大島亮吉、松方三郎氏らとの山行や北大山岳部と合同の十勝合宿があり、古き良き時代のおおらかさを感じさせる。
 昭和22年の『會報8号』は、戦時中の不自由な登山を報告し、多くの戦死者と復員会員の消息を伝えて、虹芝寮再開への意欲が語られている。
 『虹芝寮日記』も1986年に覆刻されており、併せ読むと谷川岳登攀史の一端を知ることができる。
なお、本書は特装本も刊行されている。    

(松沢 節夫)

2004年9月 日本経済論社発行 783n 10000円 


神戸大学東チベット学術登山隊・編
『神戸大学東チベット学術登山隊報告書』 
神戸大学100周年記念事業
03年10月2日〜11月17日
  
 未知の地域を探検し未踏の山頂を極めることは、ひとつの文化活動である、とする登山隊は教授学生を含む9名で、中国チベット自治区東南部のカンリガルポ最高峰ルオニイ6805bと、その周辺を目的として行動。
86年、ブータン国境付近の未踏峰クーラカンリ7554bの初登頂後、成都まで学術調査旅行時に山群の入口である然烏を通り思いを馳せ、次の目標と心に定めたが実現には17年を要した。
02年10月2日〜21日、偵察隊3名がクレバス帯を抜け4650bに達し地形を明らかにした。今回登隊山隊はC3、5830b予定地で降雪のため撤退、登頂ルートの見込みがたたず課題を残したが全員無事でBC帰着、日程もほぼ消化した。
 学術隊は別動で、教授学生を含む4名に中国側教授を加え5名が40日を費やし調査する。その結果、インド大陸がアジア大陸に衝突し、内部に2300キロbめりこみ、チベット高原ヒマラヤ山脈が上昇したということが解かった。東アジアの大河の奇妙な流れの方向の変化こそが変形の証拠と考えられ、GPSを用いたアジア東部の測量では運動は現在も起っている。八宿から昌都を経て成都に至る高度変化を図表した。恐竜と考えられる足跡が八宿の崖に残されている。地層の「産状」を観察した結果、断層活動の地表変形が見られた。芒康・八宿・昌都・察雅56ヵ所で447個21キログラムの岩石試料を採取する。
白亜紀ジュラ紀岩石の古地磁気を測り大陸変形の様相を解明する研究室内の仕事が始まる。
報告書はカラー3頁を含み内容は濃い。この山域に興味ある人には必読の書であろう。

(三沢 一三)

2004年3月 神戸大学山岳会発行 73ページ     


鈴木裕子・著
『山と私』 

 山登りに関しての自費出版(私家版)本は、これまで数多く出版されている。しかし、ホームビデオと同じく、友人や参加者間で見ればおもしろいが、他人が見てもおもしろいものではない。
 本書についても同じ事が言えるが、幸い本文での秋田支部関連の記事が数多く掲載されており、関係者間においては一気に読みたくなる程の一冊である。
 本書は、著者が還暦と退職という人生最大の節目に出版するという計画を前もってたて、日頃の山行きを常に記録に留めていた努力があってこそ纏めあげられたものであり、けっして、一夜にしてできあがったものではないと思われる。また、入会後の秋田支部山行の大半の記録を網羅しており、支部の歴史の一部とみても決して過言ではない。
 本書の見所は、他に「秋田県の山岳千メートル峰142座」の完登(女性初)や「秋田県の山56座」完登など、登山界の未知なる山々をも位置図と共に紹介していることなど、秋田県の山岳界としても貴重な記録を綴っている。
 また、家族のことや海外旅行なども併せて掲載されており、著者の自分史ともなっている異色の本でもあるが、何よりも、岳人としての最も大切な「山行歴」を年表に纏めて載せているのは、自分史作製の模範とすべきものであろう。
       
(佐々木 民秀)

 2004年3月発行 B5版 294n 非売品