会報11月号より


斎藤晋・著
『谷川岳の自然』

 山登りも多様化してきて、いろいろの登山があるようだ。本書の内容を反芻しながら谷川連峰を登ることも、山の楽しみではないだろうか。写真を撮る、スケッチをする、植物を楽しむ、などのように、である。山で目の前の登りを闇雲にやっつける、それは時代も年齢も、われわれ中高年の山登りには過ぎし日のことである。
著者は谷川岳とその周辺の自然を研究対象としてきた。学者のその膨大な蓄積と比べて、一般の中高年登山者が、同じことはできないに決まっている。それにしても、この本を片手に、地形や地質、動植物のことを観ながら登ってみたら、どんなに楽しいことだろうか。そのようなことを思い巡らせてくれる本だ。谷川岳を中心にした山域の学術的な業績、書名、年度なども記載されていて、著者の野心も伝わってくる。
個人的には、山岳域の自然保護について、著者の「考え」を伺いたいものである。 
(大船 武彦)

2004年2月 上毛新聞社発行 300ページ 1600円


Rebecca A. Brown 著
『Women on High・Pioneers of Mountaineering』

 「なぜ山に登るのか」、とりわけ自然を相手に命のやりとりが求められる、パイオニアとしての登山を志す人間の心には、どのような思いがあるのだろうか。
本書は一九世紀の初めから二〇世紀の半ばにかけて、第一線で活躍したヨーロッパと米国の女性登山家の記録や社会背景を、彼女らの心情を交えて紹介している。「女性は男性の庇護の下でしか生活できない」と考えられていたビクトリア朝時代。男性の間で繰り広げられたスイス・モンブランの初登頂争いは1786年に収束したが、それから数えて22年目の1808年、女性として初めての登頂に成功したマリア・パラディス。驚くべきことに、コルセットとロングスカートを身にまとい、女性初登頂を計画した男性たちに請われての登頂だった。彼女は成功を機に名声と金を得たが、一方でその功名心とも受け取られる動機に対して批判を浴びねばならなかった……。
そのほか、自分の意志で登山を志し、情熱に突き動かされるに山へ傾倒していったヘンリエッタ・ダンジェビルやルーシー・ウォーカ。社会的通念を打ち破り、批判にも負けずに思いを貫き通した生き様が印象的だ。二〇世紀に入り、ヒマラヤやアラスカなど空白地帯に情熱を傾けたファニー・B・ワークマンやドラ・キーン。社会を巻き込んで夢を実現させていく、ひとりの探検家としての思いと力量を垣間見ることができる。
著者のレベッカ・ブラウンは、米国・ニューハンプシャー在住の作家。自身もアウトドア活動を愛好し、自然や環境問題をテーマにした執筆や『The Courier』誌の編集長を務める。
(恩田 真砂美)

2002年11月 The Globe Pequot Press 発行 258ページ 22・95 U.S.ドル

 


舟橋栄子・編
『アコンカグアの白い風』

 ネパールをトレッキングしたときのことだ。パーティーのなかに、とびっきり元気な女性がいた。薄い空気のなかをビデオ撮影のための重い機材を担いで走り回っていた。舟橋さんだった。しばらくたち、キリマンジャロに挑戦したと聞いた。今度はアコンカグアを走り回ったようだ。
 南米の最高峰、アコンカグアへの登頂記録である。2002年から3度の挑戦で、ことし1月、ようやく登頂した。6kgにもなるビデオ機材を担いでの登頂である。
同行した仲間が共同執筆し、それぞれの体験を綴っている。訓練のため60kgマラソンを完走した話。途中で手首を骨折しギブスをつけて登った話。みんな高山病に苦しみながら、長大な砂礫の斜面を黙々と登った。そこに登頂への執念を感じた。
 登山基地となっているメンドーサで民宿を経営している増田四郎さんが寄稿されている。植村直己さんや、長谷川恒男さんが宿泊したときのエピソードを披露されていて興味深い。増田さんは「登頂に伴うビデオ撮影は、南壁の冬期単独登攀に次ぐ偉業」と評した。編著者の“元気印”がよほど印象に残ったに違いない。
 日程、費用概算、食料計画、会計報告などのデータも掲載されていて、ガイドブックともなっている。      
(高橋 重之)

2004年7月 山と溪谷社発行
B5版 200ページ 2000円