会報6月号より


佐伯邦夫・著
『渾身の山』我が剱岳北方稜線

北アルプス剱岳にこだわり続ける著者の50年史は、山仲間たち(魚津岳友会)と築き上げた、剱岳北方稜線の個性的な山々と谷の熱い記録で埋められている。        
 氏の登山人生の大部分が稜線の東に流れ落ち、黒部川となる谷と沢、北方稜線の西に急流となって富山湾に多様な様相の滝や沢、そして僧ヶ岳、毛勝,釜谷、猫又、赤谷山、剱岳などの尾根に想いが注がれ、いわば「宿命の山域」への熱い情熱と自然賛歌が読み取れる。      
 『渾身の山』は山に向き合う姿勢であり、その気概を込めて書いたと氏は言う。
 本書に収められた、雪稜編、沢編、山スキー編など15編は氏の50年史のうち後半部分であるが、
この地を慈しみ、この地域に根ざした者の喜びが、全編に滲み出て爽やかだ。
 特に私を魅了するのは、春の毛勝三山縦走、赤谷山から剱岳へ、の章での、求めて剱岳を目指し、苦しみ、雪と格闘し、耐えて耐えて、遠く高く辛かった頂に立ち、限りなく貴いものが、深く深く氏を満たすところである。
 若き日の登山では感じなかった感覚と現実の山の世界での新鮮な喜びが溢れている。
 また、「釜谷、田部重治から90年」では、18歳以来46年ぶりの再登で、そのなかで田部重治氏の初登の記録が詳しく述べられ、同じく若き時に遡行した旧知の方が、釜谷の、「昔のまま、なにも変わらぬ、これが私への大切な贈物」だったと述べており、邦夫氏はこの言葉の意味の深さを多くの人の心に届けと願わずにいられないと結んでいる。
 山スキーの章では、「剱沢から片貝東大谷へ」が当時としては、想像力を生かした山行で山屋の気持ちが素直に伝わり楽しく読める。
 巻末の用語解説、年譜「僧ヶ岳、毛勝三山との五十年」は登山者にとって貴重である、一読をお勧めしたい。     
 (佐伯 尚幸)

 2003年7月 白山書房刊 
 315ページ 2000円   
 


三浦雄一郎・著
『高く遠い夢』
『70歳エべレスト登頂』


感動的な登頂シーンの第1章、10年間の準備期間の第2章、登頂までの64日間を日記形式で克明に描写した第3,4章、そしてかなえた夢がゴールではない、まだまだ夢は果てしなくさらに高いところにあると結ばれている第5章からなる70歳のエヴェレスト登頂記(前書)。写真も多く、山好きならずとも一気に読んでしまうだろう。
 高所登山の成否は高度に順化し、かつ、食べられて眠れることであると言われるが、この本のベースキャンプでの集合写真を見て納得した。プロのシェフが隊員の胃袋をあずかっているのである。大名登山という言葉は当たらない。年齢にふさわしい登り方があり、そのひとつのあらわれなのである。シェフがユニフォーム姿で写真に収まる、この気持のゆとりというかユーモアのセンスというべきか、この本のそこかしこに感じられる。
 六千m以上の高度で滞在することは衰弱につながるという認識を三浦隊が覆したのは、酸素ボンベのサポートだけでなく、プラス志向の考え方や食事内容が大きく関与しているからかもしれないと感じた。
 今回の快挙は高齢の登山愛好家に夢を与えたとも言えるが、一方、夢の達成にはこれほど大変な努力をしなければならないこと、さらにすべてにおいて最高のコラボレーターを得ることが大切であることを著者は強調したいのではないだろうか。
 後書は雑誌である。
 今回のプロジェクトおよびそのメンバー、すなわち三浦ファミリーとその周辺の人々の紹介を軸に編集されたもので、どのテーマも豊富な写真とともに2,3ページにまとめられている。
 (堀井 昌子)

 2003年7月 双葉社発行 245ページ 1500円 
 2003年 双葉社発行 106ページ 1524円


南川金一・著
『山頂渉猟』
―2000m以上の642山 その総てに登った男の記録―

著者が2千m以上の山すべてに登られたことは会報676号で存じ上げてはいた。このたびそれをまとめて1冊となったものを手にした時、2千m以上という標高と、642山という数に改めてずしりとした重みを感じたのである。
 登った山の数からだけ言えば故今西錦司氏の1552山をはじめ、ほかにも隠れた存在があるに違いない。しかし、5万図、2万5千図に山名中記のある山ない山、あわせて2千m以上の642山、しかも数例を除いてそのほとんどを単独でなし遂げたとなるとおそらく前人未到の領域であり、近年における国内登山界の快挙と評しても差し支えないと思われる。
 本書の内容を大別すると、ーーまえがきに代えてーーの副題を持つ「日本の山の再発見」と題した論説。642山中「162山の登山記録」。そして「2千m以上の山642山のリスト」の3部からなっている。
 「日本の山の再発見」では2千m以上の山を目指した動機とその経過。642山の選び方。開発し尽くされたかに見える日本の山にも、探検登山時代と変わらない山が少なからずあること。こうした山を目指すにあたっての考え方と採った方法。さらには高さに拘わらず、再発見に値する山はほかにいくらでもあることなどを論じている。
 162山の登山記録は前記のような山を中心にかかれているのだが、それらの所在地域を9つに章立てしている。北アルプスと南アルプスは北部と南部に分け、ほかは中央アルプス・御嶽山周辺、日光・尾瀬周辺、上信越・北信・妙高周辺、八ヶ岳・奥秩父周辺、白山周辺である。
 それぞれの章には山域全体の概念図を、さらに山ごとに登山ルートが添えられている。その山の多くが主脈から離れた所にあるので、5万図上で探すのに役立っている。
 記述は単なる登山記録に止まらず、山名由来やその山の初期登山記録との照合もなされていて、充実した内容となっている。
 巻末の[付表]「2千m以上の山642山のリスト」は、鈴木弘道著『山の高さ』にもとづき標高順に並べられ、5万図名、所在県、登頂年月が記載されている。ちなみに地形図上に山名の記載がない山は45山あった。
 何はともあれ、日本の山の登山の原点を探索しようとしている人々にとってはこよなき座右の一書であることは間違いない。
 (山田 哲郎)
 2003年11月 白山書房発行 298ページ 2000円