会報4月号より


水越武・著
『世界遺産屋久島 多様性の回廊』


屋久島は厚く奥が深い。先年訪れてみて、島とは思えないその厚みとふところの深さに驚嘆した。
 世界にこんな島はない(いまのところ)と水越氏は言う。その厚みと多様性と奥の深さは、すでに『日本の原生林』『森林列島』『熱帯雨林』『カムイの森』などの重厚な写真集を発表している自然派の写真家としてはこころを吸い取られるような魅力だろう。どのページからも、息詰まるような迫力で屋久島が展開する。存在感がある、濃密な空間配置、などの言葉を作者は解説で使っているが、写真はそれらを完全に表現している。屋久島の本は数多い。その中に巨人の歩みでさらに大きな一冊が加えられた。カバーの飛沫をあげる瀑布の写真が内容の新鮮さと豪快さとを象徴している。京大教授山田勇、自然ガイド小原比呂志両氏の適切な随想・解説に加えて梅棹忠夫氏の戦後間もなくの紀行再録がある。 

 (大森 久雄)
 2003年5月 講談社発行
 159ページ 3800円


渡邊玉枝・著
『63歳のエヴェレスト』

この50年間でエヴェレストを取り巻く環境は大きく変わった。コマーシャルエクスペディションが大半を占め、ほとんどの登山者が南東稜もしくは北稜から北東稜をたどる。サミッターはのべ1600人余にもなった。
 しかしこれは、エヴェレストが簡単になったということでは決してない。装備が改良され、登る方法の選択肢が増え、登りやすくなり、大衆化したのは事実であっても、エヴェレストは依然として、人間が存在するだけで衰弱し死へと向かう超高所である。
 昨冬、ある会で渡辺邊枝氏の報告を聞き、彼女の体力とスピードに驚いた。これならば登れるはずだ、と心底思った。
 本書を読んでわかったのは、その素地は山を始めたころからあるということだ。初めての登山は職域山岳会に入った直後、2月の谷川岳西黒尾根。それから国内の上級ルートや海外の高峰へも、あれよあれよという間に出かけていく。決して無理がなく気負いもない。そして、運や天候にも左右される高所登山でも、毎回頂上を踏んでくるのは、真の実力によるものだ。
 あくまでわかりやすい書名がついただけであり、彼女の登山のメインがエヴェレストなわけでもない。国内の山登りについても、生き生きと書き綴っている。高校生のころ、農作業を手伝っている笑顔の写真も印象的だ。そういったひとつひとつのことが、渡邊氏の登山を形作っていて、彼女の登山は日々のなかにあるのだと感じる。はるか大先輩の著作を生意気な言葉でしか紹介できなかったが、彼女の、しなやかな人生を生き、山に登る姿に憧れている。
 (柏 澄子)
 2003年7月 白水社発行
 213ページ 1500円


2003静岡大学山岳部・編
『紫岳』第12号創立70周年記念

旧静岡高等学校は昭和8年創立、25年学制改革により静岡大学となった。本書は山岳部紫岳会の旧制17年、新制53年の記録である。前身の静岡高旅行部の創設1923年からは80周年となる。
 何故『紫岳』という部報なのか。「旧制時代から続く部報名はほかにもあったが、山岳部活動を途切れることなく維持継続してきた旧制静高山岳部の伝統を引き継ぐのが正統な歴史の継承である。日本に大学山岳部多しといえども、南アに傾倒した吾が山岳部の軌跡を何んとしても統合した部報に残せないかと永年考え、戦後初の新生紫岳12号を編集、企画は最初69年に始まり海外遠征等で先送りとなって実に34年ぶりの企画実現となった」と編集長は述べている。
 編集は原稿、写真、地図等を委員でCD―ROM化して完全なPDFフォーマットのかたちで渡し、印刷、製本だけを業者に依頼、費用は3分の1以下となり、若いPC世代会員にCD―ROM部報を渡すことが可能となった。
 本書はカラー写真8ページを含み第1部・歴史、2部・山行記録、国内、海外、3部・人、随想、紀行等、4部・部員、会員の足跡、その他の構成。部の過去、現在、未来にわたり抱える問題については、各大学共通の課題であろう。

 (三沢 一三)
 2003年7月 静岡大学山岳 
 会刊行 447ページ