会報10月号より



遠藤甲太・著

『登山史の森へ』

 「登山史の落としもの」と「山と人間」の2部構成になっており、分厚いハードカバーに奥深い表題となっている。しかしページを開くと藪山を歩くような、何に出会うか知れない雑多な記事を集めていて、気楽に読める内容である。
 前者では「カモシカ山行の由来」に始まり、「ヘンな山の道具たち」など、どのカテゴリーにも収まりきれないものばかりを集めたという観がある。「愛すべき山の犬たち」として南極越冬隊の残した樺太犬の始末を厳しく示唆しているなど圧巻である。また、明治後期初期西欧式登山のアルピニズム幕開け期の登山用具の紹介や、沢と谷とはどう違うかなど、歴史的にも知って欲しいことが約200ページに掲載されている。
 後者は東西有名登山家のこぼれ話で「クライマーとしてのW・ウェストン」、「アルピニスト松濤明再考」、「R・メスナーの孤独」など10編が各20〜30ページに収められている。特にウェストンについては、ロッククライマーとしての氏の活躍など視点を変えて知ることができる。

(林 栄二)

 2002年6月 平凡社刊 398ページ 2800円



Robert H. Baste・著

『MYSTERY, BEAUTY, AND DANGER』

 
 「神秘、美、そして危険」という題をもつこの英語の本の著者はロバート・ベイツ。アメリカを代表する登山家のひとりで、1930年代から50年代にかけてアラスカとヒマラヤで先駆的な登山を行った人として名高い。『K2』などの著書で登攀報告の分野での名文家としても高い評価を受けてきた。しかも、無類の読書家でもある。
 「1946年以前に英語で刊行された山岳と登山の文献」という副題のある本書は、十六世紀にアルプスを旅したイギリス人の報告にはじまり、二十世紀なかばのシプトンやジャネット・スミスに至る英語の文献を展望する。詩や小説から旅行記や登頂記に至るまでの文献の歴史は、イギリス人によって開拓されたアルプスからヒマラヤに至る道にアメリカ人が枝道をつける歴史でもある。
 映画やテレビなどの映像の生まれる以前、山岳の魅力の発見と登山の冒険の喜びに、広い意味での文学がどれほど大きな貢献をしてきたことか。著者はアメリカ山岳会の図書館で山岳と文学、登山と文献の幸福な関係を噛みしめながら本書を綴った。その思いが伝わってくるような書物である。1924年にマロリーとアーヴィンが行方不明になる3日前に撮影されたエヴェレスト頂上部の写真が3葉掲載されている。

(宮下 啓三)

 2002年 ピーターランデル書店(アメリカ・ポーツマス)発行 229ページ



日外アソシエーツ・編

『自然と冒険の旅』

 データベース会社の日外アソシエーツが編集発行している読書案内シリーズのうちの紀行編。自然紀行一般、山岳・高原、海・島、河川・渓谷、湖沼・湿原、草原・砂漠、植物、動物、探検・冒険の9分野の大項目に分かれ、その下に中・小項目がある。
 分野別のページ数では「山岳・高原」が圧倒的に多い。その主な中項目は地域別、小項目は主要山名、収録図書の配列は書名の五十音順、巻末に簡単な事項名索引がある。書誌の専門会社が考え抜いた末のシステムだとは思うが、山書好きは工夫が足りないと文句をつけそうだ。
 そもそも収録図書は2001年までの最近20年間に日本国内で刊行されたものが中心で、古典はその間に復刻、重版、新訂されたものに限られる。重要文献はその前のものも収録したと編者はいうが、選び方がちぐはぐで思いつきばったりの観がある。とはいえ全分野の収録図書は8396点、ほかにこの種の総合的な目録がないこともあり、山と探検の本の現状を知るには恰好の手引きになるだろう。

(平井 吉夫)

 2002年11月 日外アソシエーツ刊 438ページ 6800円