会報9月号より



大阪府山岳連盟・編

『大阪50山』

 本書は、平成10(1998)年に大阪府山岳連盟創立50周年の記念事業として上梓された『大阪50山−大阪五十之嶺峰』(限定版)をもとに、全国の山を愛する人たちのガイドブックとして再編集したものである。
 大阪府は旧国領でいえば摂津、河内、和泉の3国に分けられるが、摂津には淀川の北域に点在する山群(北摂の山)がある。特性としては定まった高さが群がる定高性の山群地帯であり、群れなす広大な光景、奥まった眺望は、連山背稜とは異なる景観が特徴である。北西部では京都府、兵庫県に隣接している。50山のうち18山がこの地域から選ばれている。
 河内には「生駒連山」「金剛連峰」があり、連山の向こうは奈良県になる。この地域から17山が選ばれている。
 和泉には「和泉山脈」があり和歌山県との府県境となる。残りの15山がこの地域である。
 以上は第1部大阪の山々の始めに3つの山域の特色を総説として詳細に説明されている。
 以下50山を各山ごとに山名の由来や、場所柄古代日本の生成に深くかかわっている豊かな歴史に触れながら、写真と詳細な案内地図とともに、登山コースに沿って解説されている。
 第2部として峠(山越え)、沢(渓谷の美)、岩(ロッククライミングのゲレンデ)の解説が同じ形式でされている。とくに峠は古代より人々が通った歴史あふれる峠道が多い。
 なお第1部の番外として、日本一低い山(天保山)、日本一低い一等三角点のある山(蘇鉄山)が解説されている。どちらも山岳会があり、登山認定書が発行されている。大阪人のユーモアあふれる心意気か。 

(茂見 猛)

 2002年10月 ナカニシヤ出版発行 278ページ 1900円



植村直己・著

『植村直己 妻への手紙』

 
 本著は植村直己が世界各地から妻へ送った書簡集である。10年間にわたる手紙は植村のひたむきに歩んだ冒険家人生と妻への思いが表れている。
 手紙は結婚直前から始まり、全部で143通と自作の絵はがき26枚がある。ヒマラヤ・スイス・グリーンランド・カナダ・アラスカ・エヴェレスト・南極・アメリカの語学学校や野外学校からのもの。
 このなかで最も数が多いのは532日間の北極圏1万2千km単独犬ぞり旅からのもので、105通の手紙があり、旅のありのままの姿、心情を長大なスケールで伝えている。
 手紙のなかでしばしば妻の健康を気遣い、自分を見守ってくれることに感謝する。ひとり10役をこなさなくてはならない厳しい旅のなかで、力の限りを尽くして書いた手紙からは冒険を妻と共有するなかで進めて行った植村の気持が見える。手紙のなかで、はるか離れた2人はまるで近くで会話している感じがする。
 成功例ばかりでなく失敗のなかからの赤裸々に綴った手紙もある。人への厚い対応など植村の人がらも手紙には表れている。
 ミネソタの野外学校からの最後の手紙では、将来このような学校を作りたいと書いている。
 あとがきに「夢中で暮らした10年間」と題した公子夫人の心に沁みる回想がある。

(三栖 寿生)

2002年10月 文藝春秋発行 文春新書 262ページ 750円



『Adolph Schlagintweits
Karakorum forschungsreise 1856』


アドルフ・シュラーギントヴァイトによる1856年のカラコルム研究旅行)

 ドイツ山岳会は山岳研究文献をシリーズとして発行している。そのうちの2冊が日本山岳会に寄贈された。新刊というわけではないが紹介しておきたいと思う。
 1冊はW・キック著の『ナンガ・パルバット氷河研究1856〜1990』で、十九世紀なかばから現代に至る科学的研究の推移を詳細に語っている。その歴史の出発点であるのが1856年のアドルフ・シュラーギントヴァイトの探検旅行であった。2冊のうちの薄い方の冊子でその旅行が遺稿をもとにして語られている。
 ヨーロッパのアルプスでも、日本の山岳でも、スポーツ登山の開始より先に自然科学の探究と地図作りを目的とする地形研究が行われていた。シュラーギントヴァイトは、イギリス人たちがアルプスの高峰で先陣争いをしていた時期にカラコルムに入った。そもそもカラコルムの名付け親がこの人なのであった。
 地図もない土地の地形をデッサンしたものがこの冊子に数点見られる。現代の地図と見くらべてみるとよい。距離を計測する方法として歩数が用いられていたことがわかる。「ゴレ・ブランサからツォクまで16550歩」とある。
 登山史の主たる舞台がアルプスからヒマラヤに移るよりも先に、このようにして基礎的な探索が行われていた。高度測定の苦心を推理させる個所も興味深い。現代における高峰への挑戦もその成果も、こうした情熱的な探検者の足跡に負うところが多い。
 日本語で要約、紹介してくれる人の出現を期待したいと思う。  

(宮下 啓三)

1993年 ドイツ山岳会発行A4版 80ページ 
(『ナンガ・パルバット氷河研究』は1994年発行 153ページ)