山をホームグラウンドとする趣味を持つ者としては当然のことながら、自然との関わりについて考える機会も多くなり、現状に対する問題意識やその打開策をそれなりに思わざるを得なくなる。特に近年は、深田百名山ブーム、世界自然遺産指定などからの特定の山、山域への、主として中高年登山者が集中するオーバーユース問題、あるいはトレールランニングの盛行に伴う大会や、トレールランニングのために山道を駆け抜けることからの 登山道の荒廃、ゴミ処理、山のトイレ問題などはしばしば耳にするところである。
山麓からの交通・道路条件の整備が進み、一般の観光客も容易に山や自然に親しむ機会が増えるというプラス面は大いに評価される半面、入山に伴ってオーバーユース問題が顕著に現れることになる。その端的な事例は、東京近郊の高尾山や知床、白神山地、屋久島などを想起すれば理解は容易であろう。
対策として、直ちに言われることは「入山を規制すべし」との声である。確かに海外の規制先進国(?)ニュージーランドのトレッキングルートでは厳格な入山者数規制が敷かれ、ロッジからロッジをトコロテン式に辿ることになる。これは天候に拘わらず厳格に適用されているようで、かなり激しい雨の中を歩き、ガイドの指示で濁流となった沢筋の渡渉、尻を超す水深の草原とおぼしき中を歩かされることもあった。このようなことは極端にしても、自然環境を保護する目的をかなえると同時にロッジに着いた客には安息が約束されることで、一定の入山規制は有効ではないかと思われるが、同時に入山客を支えるソフト、ハード面のインフラ整備の重要性も指摘されるところである。
何でもありの山や自然の利用とは対極にある、どちらかと言えば不自由さ、不便さを忍び、自然保護、山の環境保護との関連で折り合いをつけて行くことがこの時代には貴重なものではないかと思われる。そのさい気を付けなければならないのは、排除の論理のみが先行して自然や山に親しもうとする人々、特に若年層、小中学童などが山に親しむ機会を制約するようなものであっては本末転倒と思われる。必要なのは個々の課題に取り組むにあたっての複眼の視点である。ぜひ各界各層の知恵を集約して個々のケースに的確に対応して頂きたいものである。
本年2月20日に設立された日本山岳会29番目の東京多摩支部の活動も、山や自然に親しむ層の裾野の拡大をその狙いの一つにしている。未組織の人々を含めて共に歩くことで、JACの主要なプロジェクトである「山の日」制定に向けての大きな推進力になってもらいたいと考えている。
(日本山岳会東京多摩支部長)
*「HAT-J NEWS」4月号より加筆転載