国際山の日と日本の山の日
―世界が抱える山の問題と私たち―

渡辺悌二

国際山岳年と国際山の日

 国際山岳年の提唱国であるキルギス共和国で,2002年10月28日~11月1日にビシュケク・グローバル・マウンテン・サミットが開かれました。このサミットの場で,「国際山岳年を超えて」(IYM and Beyond)という将来の継続的な活動方針が確認されました。国際山岳年は,山の環境と私たち人間がどのようにつきあっていくのかを考え,行動する1年でしたが,1年限りの活動の年ではなく,その後も継続して山について考え,行動していくスタートの年として位置づけられたのです。
 その後,「国際山岳年を超えて」に賛同した国・地域や国際機関(2002年末時点で,30か国,15国際機関,14国際NGOなど)が,山岳地域の持続的開発に関する国際パートナーシップを結び,当面10年後の2012年までを最初のステージとして行動していくことになりました。この考え方を具体的に示しているのが,国際山の日(International Mountain Day)です。

ビシュケク・グローバル・マウンテン・サミット

ビシュケク・グローバル・マウンテン・サミットで挨拶をするネパールの代表

 

 

 

 

 

 

国際山の日とは

 国際山の日は,ビシュケク・グロ-バル・マウンテン・サミットで合意された翌年の2003年にスタートしました。国際山の日は,国際機関から個人までのあらゆるレベルで,山の持続的開発の重要性に関する何らかのイベントを行う日とされています。具体的には,持続的開発に関わるテーマを毎年一つ決めて,それぞれの国や機関がシンポジウム開催などの活動を行っています。2009年の国際山の日には山岳地域の災害リスク管理がテーマで,2008年にはフード・セキュリティ(食糧安全保障)が,2007年には気候変動が,2006年には生物多様性管理が,2005年には観光が,2004年には平和がテーマでした。
 国際山の日は,けっして私たちと無関係な存在ではありません。登山やレクリエーション,癒しの場として山岳地域を利用するには,脆弱な環境をできるだけ破壊しないで利用することはもちろん,たとえ破壊やインパクトを与えてもその回復が可能な状態で利用しようという視点が重要になります。また,平地や海岸部に住んでいる人であっても,山からの恩恵を受けずに生活をしている人はそう多くはありません。自然保護・保全の考え方に加えて,山と持続的なつきあいをする考え方を育てようというのが,国際山の日の役割なのです。

山の日ロゴ

国際連合食糧農業機関(FAO)が定めた国際山の日のロゴ

 

 

 

 

 

地球が抱える山の問題

 世界の山岳地域にはじつにさまざまな問題があります。ここでは,これまでに国際山の日のテーマになった問題について,ごくかんたんに述べてみましょう。
 災害が多い山岳地域では,災害の管理が進まなければ持続的利用どころか,安全な活動さえできません。また,世界の紛争のかなりが山岳地域で展開されています。平和がなければ,持続的利用などとうていできるはずがありません。
 世界の山岳地域には貧困な国が多く,貧困解消は持続性を高めるのに不可欠です。貧困な国には,山に住む貴重な野生動物や植物を「タダ」でとってきて,毎日の食糧にしたり,販売して生計を立てている人たちがたくさんいます。フード・セキュリティは,とくに貧困な国の山岳地域に住む人たちに先進国が手をさしのべるべき優先事項の一つです。
 山岳地域における気候変動問題は,水資源問題として捉えることができます。
水は山からもたらされる自然の恵みですが,この水をめぐって世界各地で紛争さえ生じています。乾燥した山岳地域では,水の確保がその国・地域の将来の持続性を決める大きなファクターとなります。また,急速に氷河がとけることで,下流域で洪水災害が生じる危険性が大きくなっています。いっぽう,普段から自由に水を使っている私たち日本人にとっても,今後,水は大きな社会問題になる可能性があります。私たちが日本の山岳地域に無関心でいると,水源である山を海外資本に買い漁られる危険性だってあるのです。
 生物多様性の維持には,先に述べたように多くの途上国では貧困の解消が重要で,先進国では生物多様性の保全に配慮した山岳地域の利用の仕方が求められます。生物多様性の管理は,しばしば気候変動と強く結びついています。温暖化が進行するにつれて,これまでにはなかった新たな問題も生じます。高山植物の分布域が狭くなり,シカなど大型野生動物が高山帯に入り込んで生態系を乱します。私たちが見慣れた高山帯の景色がやがて変わっていく可能性があります。
 山岳地域での観光が自然破壊につながり得ることは,容易に想像できるでしょう。地域にとってはメリットがもたらされ,しかし自然とのつきあい方について考える側面をもっているエコツーリズムの適切な開発やジオパークの賢い利用が求められます。

2002年国際山岳年を超えてー日本の山の日をー

 世界各地でみられる山岳地域の問題には,国際的な取り組みが必要なことが多いため,ある国や地域で生じた問題を他国の人たちが見て見ぬふりをしていてはいけません。国際山の日を通して,お互いに協力しあって問題解決に向かっていくことが重要になります。
 日本は「国際山岳年を超えて」の国際パートナーシップには公式には参加していませんが,国際山岳年を契機に日本でもこうした国際的な問題に対する活動が,研究者やNGOらによって進められています。また,日本国内の山岳地域で生じている問題や,かつて生じた問題への取り組みが,いま海外で生じている問題の解決に役立つこともあります。いっぽうで,日本の山岳地域には,長いこと放置されてきた森林の管理や過剰利用の問題,頻発する中高年登山者の事故など,私たち自身の手で解決しなければならない問題もたくさんあります。
 2012年はIYM + 10(国際山岳年プラス・テン)の1年として位置づけられています。国際山岳年から10年が経過して,その10年間にどれだけの問題が解決し,さらに2012年以降にどのような問題に取り組んでいく必要があるのかを,世界中で考え,実際に問題解決に向けて行動しようという年です。IYM + 10の2012年を目の前にしたいま,国際山岳年とは別に日本に山の日をつくろうという動きがうまれたことは,国際山岳年を超えた継続的な活動を私たち日本人の間に広めていくきっかけにつながります。一人でも多くの人が山に関心と親しみをもつようになることが,大きな行動への第一歩となります。

渡辺悌二
国際山の日
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