2004年11月号
学生部ムスタン遠征隊2004登山報告
 
隊長 和田岳史
 



 ネパール・ムスタン地区ダモダールヒマールの未踏峰Chhiv Himal(6650m,以降チーブヒマールと表記)の初登頂を目指していた学生部登山隊は、9月18日に隊員4名が登頂し、10月3日に全員帰国した。
 8月18日に先発2名が、25日に3名がネパール入りし、登山準備を開始した。カトマンズでの準備後、ポカラを経由して、ムスタントレックの拠点となるジョムソンよりキャラバンを開始する。同地区での荷物輸送の主力となるロバを引き連れ、4000m級の峠を複数越えながら、古都ローマンタンへのメインルートをツァーランまで進む。ここからメインルートを離れ、進路を東へ、ナムタコーラ源頭氷河を目指す。最高で5400mにもなる峠を、頭痛に悩まされながらいくつも越えて行き、9月8日、BC(5250m)建設。これより氷河左岸の砂礫帯を伝って上流を目指し、9月11日、5650m地点にC1を建設。C1からは対岸のクムルンヒマール(6380m)の絶壁を眺めながら氷河を横断し右岸へ。ここまで来てやっと、目指すチーブヒマールが視界に入る。右岸には見事にサイドモレーンが発達しており、我々を目的の場所へと快適に導いてくれた。サリブン(6328m)を左に回り込み、同峰とチーブヒマールとの間のコルにC2(6170m・9月15日)を建設した。ここを拠点にチーブヒマールは北東稜から、サリブンは南稜からの登頂を目指すことになる。
先にチーブヒマールを片付けることに決め、16日に取り付いた。ルートは岩と氷のミックスから始まり、岩稜、雪稜、急雪壁と変化があっておもしろい。天候は芳しくないが、雲の切れ間にダモダールヒマールの主峰、クムジュンガール(6759m)が馬の背のような容姿を見せ、中国領のカップヒマールがそのピラミダルな山頂を輝かせていた。初日は6400m地点まで。翌17日、天気は昨日よりもさらに悪くなっているが、5人全員でチーブヒマールをアタックする。昨日の最高到達点から緩やかな雪稜を辿り、ナイフリッジから巨大な雪庇を持った雪壁を登る。高度計はすでに6600m近くになっており、おそらくこの雪庇の上が山頂なのだろうと期待しながらロープを伸ばしていく。しかし、リッジに上がってみるとまだ緩やかな稜線が続いており、さらに先にはこれまた巨大な雪庇を持ったピークが前方に聳え立っていた。ここまでで、持参したフィックスロープ、スノーバーは全て使い切ってしまっていたので、この日はここまでとした。悪天がそのピークをさらに巨大に見せ、その夜は絶望的な雰囲気のまま眠ることになった。
18日、隊員の1名が体調の不良を訴えテントに残ることになった。残念だが、残り4名で昨日までに設置したロープを辿る。昨日の最高到達地点からさらに200m以上ロープが必要になりそうなので、ルート下部で比較的安全と思われるピッチのロープ、プロテクションを回収しながら登っていく。天候は昨日同様悪く、風が強いので非常に寒く感じる。昨日の最高到達点より刃渡り状のナイフリッジ、そして雪庇の脇の雪壁を登っていく。2ピッチで少々広いピークに出る、これが山頂だった(13時15分)。初登頂という意義を感じるよりも、隊員全員にとっての初めてのヒマラヤ峰なので、みな興奮しながら記念写真をとって、下山した。
 19日、今日はサリブンを全員で登ることにする。昨日まで工作のトップに立っていなかった者に工作を任せ、残りの者たちはルートが概ねでき上がるまでC2からその様子を眺める。昨日まで反対側のチーブヒマールからそのルートの全容が見えているので、今日は安心だ。ルートは雪壁から雪稜、氷混じりの雪壁のトラバースから緩いリッジ、そして頂上直下の次第に傾斜をゆるめていく雪面となっている。12時30分、大きな問題もなく5名全員が新ルートからの第2登を果たした。
 22日、BCを出発し、バックキャラバンを開始。帰路は往路とは別のカリガンダキ左岸の道を辿り、ジョムソンへと帰った。9月末、カトマンズ市内ではバンダ(ゼネスト)が行われていたが、その影響を受けることもなく、10月3日全員で帰国。

 今回は現役の大学生だけで隊を構成したが、各々が国内においてそれほど先鋭的で困難な登山を行っているわけではない。昔ながらの基本的な合宿(それでも数十年前の方々から見ればお粗末な)を土台に訓練を重ねてきた者たちである。登山歴数年という者でも、過去の登山者が導き出してきた経験則を利用すれば、この程度の結果を出すことができるということを今回の登山は示しているのではないだろうか。遠征というと非常に大掛かりで大変そうだという先入観があるが、現在では個人ベースのコンパクトな登山が行いやすい環境になっている。思い立ったことを実行に移す、ほんのちょっとの勇気さえあれば、誰にでも憧れの場所に立つチャンスがあるといえる。
 今回の遠征に際し、日本山岳会からは100周年記念事業に認定していただき、多大なる資金的な援助をいただいた。学生だけの隊ゆえ多くの方々にご心配をおかけしたことをお詫びするとともに、このような隊を送り出していただいたことに感謝申し上げます。また、今後も学生部活動にご理解いただきますようお願い申し上げます。

隊長=和田岳史(23歳・千葉大)、副隊長=吉永岳央(23歳・早大)、加藤健一郎(23歳・立大)、柴田由布子(22歳・学習院大)、古関光浩(19歳・早大)
 
チーブヒマール
チーブヒマール
サリブン
サリブン