2004年8月号
全国山岳遭難対策協議会の報告
 
黒川 惠
 



 夏の登山シーズンを前に、7月8日と9日の2日間にわたって、高知市で平成16年度の全国山岳遭難対策協議会(第41回)が開催された。この協議会は、文部科学省や警察庁などが主催するもので、各都道府県の山岳関係者や警察、消防などから約250名が参加した。
■昨年は過去最悪の1666人が遭難し、死者・行方不明者は230人
 警察庁のまとめで、平成15年中に全国で発生した山岳遭難の件数は、1358件で遭難者数は1666人だったことがわかった。これは、前年と比較して発生件数では10件増加し、遭難者数は35人増加したことになる。
 平成10年以降連続して発生件数が1000件を超え、警察庁が統計を取り始めた昭和36年以降発生件数、遭難者数ともに過去最
高となった。最近10年間の発生状況は別表のとおりで、昨年と平成6年を比較すると、
◇発生件数584件増加(75・5%増)
◇遭難者数704人増加(73・2%増)
◇死者・行方不明者数24人増加(11・7%増) 
といずれも大幅に増加している。
■40歳以上の中高年登山者が全遭難者の約8割
 年齢別発生状況は、別表のとおりで、60歳から64歳が最も多く、15・8%となっている。また、過去10年間にわたる40歳以上の中高年登山者の遭難者数は別表のとおりで、昨年は過去最悪の1298人となっている。これは全遭難者数の77・9%を占めている。
■事故原因のワースト・スリーは「道迷い」「滑落」「転倒」遭難原因を態様別に分類すると別表のとおりで、道迷いが圧倒的に多く約4割となっており、滑落、転倒、病気、転落と続いている。
■約4割の遭難者が事故現場から直接救助要請
 全遭難件数の38・9%が遭難現場から何らかの通信手段を用いて救助要請をしている。このうち携帯電話で救助要請をした件数は514件で37・8%であった。
 警察庁は、携帯電話は万が一の連絡手段としては有効であるが、決して万能ではないとした上で、予備バッテリーの持参や要所での事前感度チェック、低温などによる機能低下の防止など注意点をあげている。
(資料は、「平成15年中における山岳遭難の概況」(警察庁)から抜粋しました)


「全山遭」分科会に参加して
第2分科会テーマ
「中高年登山者の指導と育成」
■キーワードは「未組織登山者」と「中高年」
 最近6年間の分科会でいつも課題となるのが、未組織登山者の育成と中高年登山者の遭難増加である。それに関連して、「ツアー登山」のありかたも大きなテーマとなってきている。また、青少年の学校登山や山岳部活動の低迷などもとりあげられてきている。そんななかで、わが身と日本山岳会をふりかえってみたときに「我々にはいったい何ができるのか?」と考えさせられるのである。
 私自身、本籍は日本山岳会で、現住所が登山専門旅行業者だと心底思っている。大学山岳部とJAC学生部で育ってきたと言ってもいい。登山に明け暮れたおかげで、仕事も山に関係することになってしまったわけだ。だからJACには感謝している。ご恩返しのつもりで理事会の末席に座ってもいる。いまでは出身校のOB会活動よりJACの仕事に時間をかけていると言っても言い過ぎではない。
 そこでJACは何ができるのかを考えてみた。

■中高年登山者集団JAC
 およそ6千人の会員の平均年齢が60歳を超えたいま、日本山岳会は押しも押されもせぬ中高年登山者集団と言えるようになった。「新ハイキング・クラブ」や「おいらく山岳会」、「みろく山の会」、「ふわく山の会」など長い歴史をもち、活発な山行を行っている数多くの中高年山岳会と平均年齢においてついに肩を並べることができたのだ。
しかし、JACは中高年山岳会を標榜してきたわけではないからそこにこれからの課題がある。

■「社会人山岳会」的同好会活動への期待
 組織内組織とも言えるJACの各同好会は、同期入会者の集まりが発展して同好会になったケースが多くあると思われる。スケッチや写真などテーマがはっきりした同好会とはすこし趣旨が異なるから、同好会の山行は、むしろ本来の社会人山岳会的と言えるのではないだろうか。
 せっかく日本山岳会へ入会された会員番号5桁の会員の退会が最近はどうも目立つようである。なぜだろうか。私たちが入会したころは、JACの仲間と国内登山をしようとは思っていなかったし、そういう機会も多くなかった。学生部の延長から会員になったようなもので、そんな仲間との海外遠征が夢でもあったし、競争相手としてよい刺激にもなった。
 でもいまは大きくちがっているのではないだろうか。JACに入会される中高年登山者のみなさんが、もし、JACで山仲間を見つけて生涯登山を楽しもうと考えておられるとしたら、「会山行」の少なさにきっとびっくりし、残念がるのではないかと思う。
 同好会活動が活発になることは、そんな新規入会者への期待に応えることにつながってゆくと、私は思っている。そして、それは、登山界が直面している課題でもある「未組織登山者の育成」へ大きく貢献し、ひいては山岳遭難事故の防止にもつながることだと言えるのではないだろうか。

■「ケガと弁当自分持ち」
 と、言うからかどうか知らないが、長野県知事が「救助ヘリコプターの有料化」を口にした。当然賛否両論があってよいだろうが、「金がないから救助要請できない」なんてことになってはいけない。山では「セルフレスキュー」が第一義であることは当たり前だけど人命は重い。
 救助ヘリ有料化については、山岳救助現場の声をもっとよく聞いてから慎重な発言をしてもらいたいとおもったのは私だけだろうか。山には信号機がないから、行くかもどるか決めるのは自分自身だ。登山は自己責任、と言われる所以はそこにあると思う。責任とは、必ずしも救助費用を負担するかしないかということだけではないはずだ。
 警察や救急が有料で出動したら、「金出すからヘリを出せ」なんてことにはならないだろうか。いっそのこと、「相当額の寄付制度」にしてしまえばよいのに。そうすれば、「自己責任認識度」を計るいい機会になる。
 と、高知の全山遭に出席し、各都道府県でそれぞれご苦労されている人たちと意見交換しながらしみじみと思った次第である。