2003年3月号
日本山岳会の現状と長期改善計画(骨子)について
西村政晃
 創立100周年を2005年に控え、中長期的な展望に立って会のあり方を検討することとなった。一昨年9月、理事会で「長期改善計画策定プロジェクト」の設置が決まり、西村をリーダーに村井龍一副会長、今村千秋・坂井広志常務理事、高原三平・松原尚之・朴元鍾徳理事、贄田統亜総務委員の7名がプロジェクトメンバーとなり、長期改善計画のたたき台づくりに取り組んだ。
 延べ5回にわたり理事・評議員・会員有識者22名で構成する「検討メンバー」に意見を聞き、理事会の3回にわたる審議、評議員会の諮問を経て、長期改善計画(骨子)がこのたび承認された。
 本計画は会運営の中長期的な指針とするとともに、単年度計画として平成15年度事業計画、収支予算、組織改正などに反映され、実施に移されようとしている。そこで、日本山岳会の現状についての私なりの理解と、会で決定した本計画について、若干の説明を加えながら紹介したい。
 なお、本計画策定にあたっては、感覚論に陥らないよう、2000年11月に実施した「第4回会員アンケート」(回答数3255、回答率54、5%)の結果を中心に、できるだけデータに基づいて検討を行った。

日本山岳会の現状

 1905年10月、7人の発起人の呼びかけで創立された当会は、途中大きな戦争の時代を経ながら着実な歩みを続け、いよいよ再来年10月14日、創立100周年という記念すべき時を迎える。当会へのさまざまな評価があるにしても、創立以来、パイオニアワーク、精鋭的な登山を積み重ね、わが国の登山界に貢献してきた、伝統の山岳会であることは間違いない。
 一昨年には「冬期ローツェ南壁登攀」(東海支部)、昨年は「東カラコルム踏査・パドマナブ峰登山」、日中合同の女子による「チョー・オユー峰友好登山」などが実施され、その伝統は継承されている。
 山に関する文化的活動についても『山』『山岳』などの機関誌の発行、図書、科学、自然保護などきわめて幅広く実践してきた。
 当会はこうした登山と文化的活動の地道な積み重ねによって、国の内外で知名度が高く、わが国を代表する山岳会として名声が高い。
 6007名の会員は登山経験、職業など多様で、きわめて豊富な人材が在籍している。これも当会の誇るべき財産と思う。財政の面も正味財産4億円を有し、年次の収支も安定して、財政基盤は強い。
 今回の長期改善計画策定プロジェクトでは当会の「強み」と「弱み」を明らかにした上でできるだけ「強み」を生かして改善計画を立案する方法をとった。

 次に会員の動向を見てみよう。
90年代に入り、登山ブームとも相まって毎年2〜300名代の入会者があった。平成元年度に4447名だった会員数は、12年間で1548名(34、81%)増えて、平成13年度5995名となり、この2月には6007名を数えている。
 しかしこの3年間は会員数が頭打ちの状態である。平成12年度には入会者が200名を割り会員増が27名、平成13年度は物故者、退会者、除籍者が194名もあって、僅か2名の増加にとどまっている。本年度も同様の傾向にあり純減も懸念される。
 会員の構成も大きく変わってきている。会員の高齢化が言われて久しいが、2月10日現在50歳以上の会員は5294名(87.75%)を占める。平均年齢は62歳を数えるに至っている。若い会員は10代から20代で僅かに38名(0.63%)、30代まで含めても239名(3.95%)に過ぎない。どこの山も高齢の登山者で賑わっている。

 山岳会の所属のしかたについて、古くは大学山岳部OB会や社会人山岳会に所属し併せて当会へ所属という形が多かったが、現在36%の会員は当会だけで他の山岳会には所属していない。
 登山経験は「岩・沢登り、雪山までオールラウンドな登山経験者」が50%、「無雪期の低山・高山のみの経験者」が22%を占め、後者の比率は増え続けている。
会員の構成はだいぶ変わってきているが、会員の山登りはなかなか盛んだ。年間の登山日数は20〜29日の会員が20%、30日以上の会員が27%いる。低い山も含めて海外登山の経験者は50%、今後海外の山へ出かけたい意向の人が47%と多い。海外トレッキングも盛んで50%の会員が経験し、今後も60%の会員がトレッキングの参加意向を示している。
 こうしてみると、世の中と同じように年齢は高いものの当会の会員は、いたって活動的なのである。

 支部の数は現在25で、伝統的に各支部は主体性を尊重した運営となっている。3045名の会員(50.69%)が支部に所属し、各支部でのクラブライフをエンジョイしている。支部によっては国内山行、海外遠征、文化的活動など極めて活発なところと、必ずしもそうではないところと、バラツキがある。

 会の現状をざっと俯瞰してみて、当会の「強み」「弱み」をいくつか感じていただけたことと思う。会の改革・改善のためには長く続いている誇るべき伝統、キラ星の如く在籍している豊富な人材、多くの活動的な会員の存在など、会の「強み」を生かすことだと思う。
 世の中の山登りの大きな変化と、当会の会員構成の変化を直視しつつ、当会の中長期にわたる地道な改善計画をつくって、それを着実に推進することが大事である。そして不都合があれば手直しをする、あるいは新たな計画をプラスする、ということでスパイラルアップが図れれば良いと思う。

 本計画にドラスティックな転換を期待されていた会員にはいたって地味と取られるかも知れないが、今後、プラン・ドゥ・チェック・アクションの管理サイクルを不断にまわすことで、会の着実な発展が期待できると私は信じている。

長期改善計画(骨子)

1 山岳会のコンセプト

◆日本山岳会の理念の継承
 「わが国最古の山岳団体として創立以来のパイオニアワーク、精鋭的な登山活動の伝統を継承する。また、本会の理念を理解し山と自然を愛する登山者とともに歩む」
 パイオニアワーク、精鋭的な登山を継続強化しつつ、大衆化の進む当会の会員にも対応した事業拡大を図ることとする。活動の内容としては「アクティブな登山(例・マナスル、ナムチャバルワ)」、「国内の多様な登山、行事」および「文化的活動(機関誌、図書、科学、自然保護)」など、いわば複眼的な山岳会として幅広く実践してきたが、一層強化、充実を図る。
 
2 会員

◆入会資格
 現行どおりとする。
 「当会の目的に賛同し、会員2名(そのうち1名は役員または評議員、支部長もしくはその経験者)の推薦があり理事会で承認された者。支部会員については各支部の規定を尊重する」

◆会員増強
・事業の活発化をはかりながら、積極的に入会促進を行い会員数を増やす(ホームページの充実、各OB会への働きかけ、ほか)。

◆若年会員、青年会員の確保
・若年会員、青年会員の活動の積極的援助を行う(学生部海外遠征、青年部機関誌『きりぎりす』刊行)。
・10〜30代への入会アプローチの強化。
・経済的に入会しやすい26歳未満者への入会働きかけを行う。
*長期改善計画の一環として14年度総会で細則を改正、26歳未満の入会者について従来の入会金免除に加え、年会費を5000円とした(本年度26歳未満入会者8名)。

3 事業

◆基本的考え方
・前記の項目1(山岳会のコンセプト)、2(会員)を受け、パイオニアワーク、精鋭的な登山を一層強化しつつ、未組織や経験の少ない会員を視野に入れた事業の拡充を図る。
*「国内山行」「海外トレッキング」「講習会の一部」の活性化については集会委員会の一大強化(陣容、費用予算)により事業化を進める。推進にあたっては、専門の企業やスタッフの活用を行う。

◆海外遠征
・アクティブな海外遠征の強化
当会の理念継承の大事な事業であり、一層の強化を図ることとする。
*創立100周年記念登山(03冬期ローツェ南壁、ほか)
*支部主催の海外遠征
*委員会主催の海外遠征(マッキンリー気象観測登山隊ほか)
*創立100周年記念登山は右記のローツェ南壁隊のほか、第9次インドヒマラヤ登山隊2005(東海)、チベット・トゥイ・カンリ登山隊2004(関西)が決定、ほかの支部でも検討中である。
 本計画に沿って集会委員会で募集したネパールの未踏峰を目指すカングリ・シャール(6811m)シニア登山隊2003は11名の隊員が決まり、4月15日出発予定。

◆海外トレッキング
・ヒマラヤ登山の支援トレッキングや、かつてのネパール、カナディアンロッキーのようなトレッキングの拡充を図る。毎年年度計画を立て、会報やホームページなどで募集し、実施する。
*本計画の具体策として15年度ふたつの海外トレッキングが予定されている。
 ・カングリ・シャールシニア登
 山隊支援トレッキング4/19〜
 5/11の23日間、現在募集中
 ・カナダトレッキング「紅葉と
 氷河の山旅」9/6〜15

◆国内山行
・一般山行、カルチャー山行、支部企画の山行など一層拡充を図る(リーダー保険導入済み、参加者の生涯保険の付保)。

◆登山講習会
・各種登山講習会の充実
例・冬山登山入門、山スキー、 机上講習会(救急、気象、地図など)

◆自然保護=自然環境保全
・環境負荷を軽減しつつ、登山団体の当会らしい自然保護活動を積極的に実践する。
・当会の自然保護の方針(1992年5月23日制定「日本山岳会自然保護委員会の行動指針」)の再確認と一層の活動強化をはかる。
(例・「フィールド・マナーノート」の作成、「トイレマナーノート」の作成、「高尾の森づくり」を通じての体験的自然保護の実践→いずれも高い評価を得ている)

◆会員サービス(狭義)の充実
・グッズ販売の充実/グッズ類(ネクタイ、帽子、ナイフほか)の新・改良販売の積極的実施
・山岳遭難保険の強化/現在約1800名加入。加入者を増やし割引率の向上を図る(現在事故勘案を含め25%割引)。
・登山道具、山小屋料金などの割引制度の導入/登山道具店、山小屋と提携し、優待券を作成、配付し、割引での利用を促進する。

◆「講演会」の定期開催
・非会員も含めた講演会の定期開催/料金の安い公共施設を使い、登山や探検などの講演会を会員外にもPRして定期的に開催する。
*本計画に沿って平成15年度は2回予定されている。
 ・4/15(火)「メコン川水源の探
 査と初下降」現在申込み受付中。
 ・2回目は秋に予定。

◆若年会員獲得のための小・中・高校生のための登山指導の実施
・3支部(北海道・福井・宮崎)の子供登山の先行例を水平展開する。子供登山、親子登山と、支部により内容が異なるが、先行例を参考に各支部での実施を広げる。
*12年11月実施の第4回会員アンケートで「若年会員獲得対策」として登山指導を会員の48%(第1位)が支持している。

◆海外登山助成の充実(省略)

◆「秩父宮記念山岳賞」の充実(省略)

◆出版事業の強化(省略)

4 施設

◆ルーム
「長期的に1階のルーム拡張」
・1階の追加購入ないしは上層階購入後1階との等価交換により1階に必要面積を確保する。この方針に立ち一昨年10月211号室を借り増しした(購入を家主に打診したが売却の意向がなく、今回は賃借となった)。
*超長期の課題「日本山岳会会館」の取得。現在のビルを売却、大きく値下がりしたオフィスビルを購入し、当会使用部分外を賃貸して借入金の返済に充当する。

◆山研
「山研の一層の利用率向上」
・社団法人としての公益性を考慮しながら、PRの強化、各種催しもの増加などにより稼働率の向上を図る。本年は正月開所を実施、56名が利用。

5 ジャーナル

◆ジャーナル類全体の充実
・より一層の充実を図る。費用の予算措置を重点的に配慮する。『山』『山岳』は事業のうちで会員へ直接利益を還元するきわめて重要なものだけに、内容充実、体裁の見直しなどを図る。
・力量のあるエディターの発掘、後継者育成/人材豊富な当会の強みを生かして不断の人材発掘と後継者の育成に努める。

◆会報『山』の充実
・『山』は毎月会員へ直接配付される唯一の定期連絡、サービスであり、カラー化の検討などより一層の充実を図る。

◆年報『山岳』の充実
・『山岳』は会の記録および日本登山界の動向を含め、従来の編集方針を継続する。記録性を重視する。速報的なものは『山』に、またはホームページで。

◆初の日本発の英文山岳情報誌『Japanese Alpine News』の充実
・JAC自身が自前の情報収集機能を構築する必要がある(後記「10海外登山情報の収集」と連動)。

6 ホームページ

・インターネット小委員会により不断の内容充実を図る。
*会員アンケートで、43%の会員がインターネットを利用し、50%の会員が当会の情報をインターネットで知りたいと回答している。
*講演会の案内、トレッキングの募集など速報性を要するものはホームページを有効活用する。

7 支部

◆支部活動の一層の活発化
・年2回(5,12月)の支部長会議および2月の支部事務局担当者会議、全国支部懇談会、会報『山』などを利用して優れた活動を展開させ、一層の活発化を図る。
・活発な支部運営のために、一定の規模以上にするよう、細則改正時に支部設立の要件を見直す(例・最低人数/現在20名→40名)。

8 組織・人事

◆会の組織の見直し
1理事会
・理事の数/定員20名を若干減らし機動化を図る(15年度1,2名減、17年度さらに若干名減を検討)。
・理事会の開催/15年度より従来の年11回を10回に減らす(8、1月は開催しない)。16年度以降さらに若干減らすことを検討する。
2常務理事会
・組織の性格/従来どおり「機関」とはせず、"常務理事打ち合わせ"の性格を継承する。理事会の議題整理その他重要な事項について会長の指示により任務を遂行する。今回、遂行する課題を一部増やすことで理事会の審議事項を若干少なくする。(以下省略)

◆委員会の見直し
・活動の重複した委員会を統合・再編(表1)。2年後再見直し。
・委員会、委員の固定化傾向を少しずつ改善し、新風を吹き込む。
・「一理事一委員会」担務の委員会は原則として委員長はおかない(例・総務、会報編集)。
*戦略的な仕事を担当する委員会は一部、副会長が担務する(例・百年史委員会)。

◆定款、細則、規定類
・定款、細則と実態が合わなくなったものは随時改正を実施する。
*本計画に沿って14年度総会で細則第7、10、21条を改正した。
・昨年9月に制定した「規定類管理規定」に基づいて14〜15年度規定類の整備(改正、制定)を行う。

9 財務

◆会費、入会金
・会員増強、会費収入増、事業収入の確保、コストの削減に努め、将来できるだけ会費、入会金を長期間据え置くこととする。
*年会費の割高感が会員アンケートの回を重ねるに従って増えており、会員の高齢化、景気などを勘案しできるだけ長期間の価格の据え置きが大事である。

10 海外登山情報の収集

◆日本人の海外登山情報の収集
・百年史編集作業の中に取り込み記録収集、データベース化を図る。
*百年史完成後の課題
登山情報に精通した会員を臨時職員で雇用し、それ以降も記録の収集、データベース化を継続する。