●対象:黒部横断 岩小屋沢岳〜白竜峡〜黒部別山中尾根支稜〜八つ峰1峰4稜〜本峰〜早月尾根
●期間:4/28〜5/4
●メンバー:木下(日本山岳会青年部)、三好(秀峰)、榎並


 98年5月のS字峡、00年5月の十字峡に引き続き、今年も黒部横断、今度は白竜峡である。

28日 (快晴)
 快晴で気持ちの良い入山日である。扇沢6:55発。
 岩小屋沢岳へ直接上がる尾根は、上部の草付が嫌らしいとのことで、岩小屋沢右岸の新越尾根に取付く。なにも問題のない尾根だが、久々の重荷に息が上がり、休み休みのペースで進みとなる。稜線まで4時間余りを要した。
 稜線に上がると、夏道が露出しており、目指す剣も昨年に比べると雪が少ない。正月から2月にかけては雪が多かったものの、その後、気温が高い日が続いたせいなのだろうか。
 12:00、岩小屋沢岳北西尾根に入る。しばらくは、非常になだらかな尾根が続き、まさに稜線漫歩。ぐんぐん行程がはかどり、あっという間に剣が見えなくなる高度まで下ってしまう。途中2067mPで、十字峡に落ちる本稜と分かれ、白竜峡への枝尾根に入り、1770mPに13:40-14:00。
 ところがこのピークからは、これまでのなだらかの尾根から一変し、尾根の形状を失いながら標高差700m下の白竜峡まで一気に落ち込む。結局翌日にかけて、すべてザイルを使用し下降することとなる。
 1770mPから、左右に分かれる尾根の間の斜面を25mの懸垂2回で下り、一端尾根に乗るが、その先は左のルンゼをブッシュでランニングを取りながらコンテで下る。昨年の十字峡への下降と違い、ここからだと黒部別山の核心部である東面を真正面から見ることとなり、別山とがっぷり取り組む感じがする。その分、プレッシャーともがっぷり取り組むことになる。目指す中尾根支稜はえらい傾斜があるようにびびる。
 計画段階で名前の挙がった大タテガビン第1尾根などは、傾斜の強さからほとんど雪がついていないが、とても登れる気がしない。扇沢であった、わらじの仲間の吉原さんのパーティーが、ダムから取付くと言っていたが、止めといてよかった……
 どうも、左に寄りすぎたようなので、途中で右へトラバースし軌道修正。
正規の尾根の1360m付近のポコが右下に見え、懸垂でそれに乗れそうな見通しがたったところで17:00。今日はタイムオーバーで緩傾斜帯を整地して泊まることとした。正しいルートを取ったとしても、出だしはまったく尾根状を呈しておらず、また途中でルンゼを横切り尾根の踏み変えをせねばならず、このあたりのルーファイは難しい。


29日 (快晴のち曇)
 
5:10発。朝イチの40mの懸垂で首尾よく、1400m地点で正規の尾根に戻る。尾根はここからしばらく平らになった後、別山谷正面に落ち込むが、平らな部分にきのこ雪が出来ているので、過去の記録に習い、右のルンゼを下降することとする。(別山中尾根支稜より見返したところ、きのこ雪の部分を突破したとしても尾根末端が壁状になっており、右のルンゼ下降が正解なようだ)
 スタカットで1ピッチ下りた後、30m,20mと2ピッチの懸垂で滝状の部分を下り雪渓に立つ。あとは、1ピッチクレバスを巻くのに懸垂したほかは、延々、スノーバーでランニングビレイを取りながらのコンテで進む。雪が硬く、ほとんどクライムダウンの体制での下降を強いられ、精神的に疲れた。
 やっと黒部川のデブリの上に立ったのは8:50-9:10。両岸の断崖の中、デブリが累々と詰まった谷底は、地の果てというと大袈裟だろうか、なんともいえぬ雰囲気がある。昨年のGWに、北西尾根より滑落し亡くなった秀峰登高会の荒井さんに黙祷を捧げた。
 別山谷を少し詰め、中尾根支稜に取付く。取付きはヤブだが、すぐ雪に乗れる。しばらくは尾根の傾斜は緩く、また右側が緩斜面になっているが、ところどころ雪がつながっていない場面では、段差の乗り越しや、不安定な雪に上がるのにロープを出す。5ピッチ、ロープを出したところで、1620mの尾根の右曲点(13:50-14:05)。
 ここからは尾根は細くなり、また行く手1870mの左曲点にかけて、いくつものきのこ雪つきの小ピークがポコポコと迫り、がぜん緊張感が高まる。不安定に雪のついた平坦なリッジを4ピッチロープを出してすすみ、ポコポコピーク越えの取付に着いたとこで行動終了(16:40)。足元の雪ごと崩壊する可能性を考え、念の為、ブッシュにロープをつなぎ、ビレイを取りながら寝ることとする。テントに入ったくらいから、雨。


30日 (雨後快晴)
 出発時には雨はほぼ止むが、視界はあまり良くない。5:50発、幕場からロープをつけ、木登り半分、雪壁登り半分で登って行く。一つ目のきのこピークは、正面は岩が出てるので一端バンドを左にトラバースし、垂直やぶ漕ぎできのこの下へ。ここから、5mほどの垂直きのこにスコップを振るい、上に這い上がる。リードの順番となり、なかなか楽しめた。ここまで計5ピッチ、8:50。
 次のはピナクル状の岩峰の頭に10m四方の立方体のきのこがのっており、「なんじゃこりゃ〜」と思わず感嘆の声。とても直登不能だが、幸いに別山谷右俣側のバンドをトラバースすることが出来た。バンドの途中から、30mの懸垂で右俣側の雪渓に一端下り立ち、これを登り返し尾根に戻る。
 が、今度はこの先の1870mの左曲点ピークまで標高差100mあまりが急にせせりたち、尾根の形をなしていない。岩の間のブッシュをつなぐとしても、厳しそうなので、今度は左の別山谷左俣R4側を登ることとする。
ちょうどこのあたりは、左俣R4の沢床が稜線のすぐ下までせまった準略奪地形となってるので左俣R4へはすぐ下りれる。とはいえ、上部はルンゼがいくつも派生した複雑な地形で、どのルートをたどればいいのか判然としない。けっきょく、さした根拠があるわけではないまま、一番尾根に近いルンゼをルートとする。
 出だしは雪がついておらず、水流が出ておりアイゼンをつけての滝登り。トップで取付いたが、下から見るとそう問題なさそうに見えたのが、右のチムニー状の方に入りすぎてしまったせいで、体がひっかり動けなくなる。仕方なく、ザックを置き空身で登る。少しの上のバンドからザックを引き上げようとするが、それも叶わず結局、フォローの木下さんの奮闘でダブルザックで上げてもらった。  
 この上から雪のついた逆くの字型のルンゼを3ピッチ登り、1870mピーク上の稜線に戻った(13:20)。この頃には天気も回復し、すっかり晴れてきた。週末の山と違い、時間を気にせずに、あれこれ試行錯誤しながらルートを延ばしてくのは贅沢極まりなく、幸せである。
 この上は尾根の上を辿れるが、ところどころ急雪壁やナイフリッジが表れるので、引き続きロープをつけてゆく。尾根が最後に中尾根本稜に吸収される急傾斜部分の取付きに16:00。見た目、垂直藪こぎ2〜3ピッチで越せそうだったので、この時間からだが突っ込む。しかし1ピッチ登ると、思ったより傾斜があり、藪の中に露岩も出ており厳しい。懸垂で、先の取付きに戻り、ここにあったシュルントの中で泊まることとする(17:30)。上の雪が崩れればアウトなので、あまりいい気はしないが仕方ない。


1日 (晴時々曇)
 5:40発。きのう越えれなかった急な藪リッジからルンゼを渡った一本左のリッジを登ろう試みるが、間のルンゼが急で断念、1時間ロス。少しちぐはぐになってしまったが、気を取り直し別山谷右俣側を大きく巻くことにする。計7ピッチ、うまく雪をつなぎ中尾根本稜と合わさった上の尾根に戻ることが出来た(8:50-9:10)。ただ、雪が緩んでる時間帯だと、取れないルート取りかもしれない。
 ここまで来れば、もう別山はすぐそこ。辿りつくと、ぱーっと剣が眼前に迫る。堪えられない瞬間だ。(9:35-9:50) 小休止し、予定の滝の稜を目で追う。が、そもそも尾根があまり判然としないし、中間部が雪がつながっておらずスラブが出ているように見え、不安になる。
 ともかく近くまで行ってみようと、適当な斜面から剣沢に駆け下り、二俣に11:00-11:15。ここまでくると、他パーティーの姿や山スキーヤーのシュプールなど、急に人臭くなり、緊張感がなくなる。
 このあと八つ峰を登っててもこの緊張感のなさは同じで、「落ちても剣沢で止まって、すぐ助けがくるだろう」という気分になる。どちらにせよ落ちたらまずいのだろうが、別山東面のときの「落ちたら下の廊下まで止まらず、誰も助けてくれないだろう」という感覚とぜんぜん違う。まあ、5月だからこそ、こんな甘ったれていれるんだろうけど。甘えの通じない時期、まずは3月、ゆくゆくは厳冬期にぜひ来てみたいものだ。
 近づくほど、滝の稜は分が悪くみえる。ドミノ岩の先が、スラブに雪がのってたり、なかったりするところを登らなければならない。スラブ部分を技術的に登れるかという問題と、雪の部分はのってる雪ごと崩落したらアウトという問題がある。三ノ窓雪渓をだいぶ登って、いろいろ考えるが結局は1峰4稜に転戦することとした。ただ滝の稜は、想像してたの違い、あまり目立つ尾根ではなく、正直言ってぱっとしない。例えば、3月に(仮に休みが取れたとして)来るとしても、滝の稜のリベンジを狙うのではなく、1回登った3稜を登るだろう。
その方がラインとして美しいと思う。滝の稜というのは、わらじの仲間の宮内さんや大津さんが上越や飯豊で実践し、私もちょっと真似事をしてる、マニアックな掘り出し物探しと発想は同じなのではなかろうか。和田城志さんの記録の根底に、共通項を見つけにんまりする一方で、「掘り出しもの探し」の実践の舞台が「冬の剣」であることの重みに思いをめぐらすと、畏敬の念を感じるざるを得ない。
 二俣13:30発、4稜に取付く。滝ノ稜断念の気持ちの整理がつかないためか、バテ気味。無名岩峰の登りだしの手前に15:00、ここで泊まる。


2日 (曇のち雨)
 高曇り。4:40発。正面の無名岩峰は、左のルンゼを20m懸垂し、4の沢側のルンゼを登る。懸垂の途中からだと傾斜があるように見えるが、思ったより寝ていて、時間が早く雪質も安定しているためノーロープで登れる。
 コルに6:10-6:25
しばらく登ったところからロープを出す。ところどころ木登りを交えながら急雪壁と、ナイフリッジを越して行く。
 
P5の垂直藪こぎもしんどかったが、P6からマッチ箱にかけては先は細いリッジにのったきのこ雪の上を登ることとなりおっかない。これを越すとあとはピラミッドピークの登りだけになるが、気温が上がり雪が緩んできており、急雪壁に突っ込みうのはためらわれる。
 岩交じりのコルに地面の出たスペースをみつけ、ここまでとする。計14ピッチ、13:00着。テントを張り出したくらいから、雪が降り出す。久々に早く行動を終えたのでのんびり休むが、雪はみるみる強くなり、あたり一面にうっすらと新雪が積もっていった。


3日 (ガス)
 この先の急雪壁についた昨日の新雪が心配だったが、朝から「シャーシャー」次々と雪崩て、大方は落ちきったように思える。
ただ、ピラミッドピークまでは視界が利かず、最上部の雪が落ちているか確証が持てない。なので9:40発、2ピッチ左上したブッシュから、ロープを2本つなぎ
80m伸ばしトラバースして、隣の3稜に出た。
 そういえば昨年は、今回と同じ横断6日目の同じ時間、ちょうど同じような天気の中、3稜のまさにこのあたりの場所から1・2のコルを目指して登っていた。3稜上部にロープを延ばし、1峰12:10、1・2のコルに13:00。視界がなく進めないのは昨年と同じ。明日が晴れの予報なのも昨年と同じ、なので昨年と同じくここで泊まる。


4日  (快晴)
 すっきり晴れた。何度歩いても、八ツ峰は楽しい。まさしく日本を代表する第1級の雪稜である。毎年GWに歩いてもいいぐらいだ。
 4:50発。5,6のコルまでは昨日までの雪でトレースが消えかけた中をトップで進むが、さしたる問題はない。3峰、4峰、5峰と懸垂。4峰では残置支点までの数歩が悪そうだったので、使わずじまいであった竹ペグを埋めて懸垂した。(笠ヶ岳での竹ペグ懸垂失敗の直後なので、ホームセンターで買った2cm×2cm×50cmの角材を持参していた)
 昨年は5,6のコルから、上半部日帰り組のパーティーに先に入られ大渋滞となったが、今年はまあまあの順番で上半へ。それでも7峰の懸垂で30分あまり待ったぐらいであろうか。
 上半では、昨年は気にならなかった6峰Cフェースの頭からのクライムダウンが、だいぶ悪く感じた(木下さんはノーザイルで行ってしまったが…、ちと反省)。
7峰は昨年はスノーキャップに巻いてあった残置スリングで懸垂したのが、今年は手前のハーケンから斜め懸垂。雪の量によりだいぶ状態が変わってくるようだ。
 池ノ谷乗越
12:00。「早月小屋で最後の晩をのんびり…」と思っていたが、なぜか皆、今日中に下山と気合が入っている。本峰でこそ、関学の長岡-芥川パーティー、上智OGの恩田さんパーティーと偶然会ってのんびりするが、ここからは膝が痛いのをこらえがんばってしまうこととなる。
 ちょうど早月小屋の下あたりに雲がかかっており、暑い西陽の中から雲の中に入る。ここまでの行程を振り返りながら、重力に任せ下りてくと、その下には山桜の色づきはじめた春の里が待っていた。最後を松尾平に出ず、右の白萩川の林道に下りたお陰で、時間を得して
17:00、馬場島下山。

 お目当ての馬場島荘の山菜テンプラは時間切れだったのは、ちと残念。が、あとは、上市で風呂、富山でぱーっと刺身。へべれけのまま能登に乗り込み、あげくの果てには翌朝上野で松屋の牛メシとマックの朝セットをハシゴして、今年のGWはめでたしめでたしで、終わった。

 これで5月はS字峡・十字峡・白竜峡と3回目の横断となったが、下りながら真横から見る黒部別山の迫力、雪に埋まったV字谷の底のあの雰囲気…、今回が一番「横断らしい」山であった。足並のそろった楽しいメンバーにもめぐまれ、充実した山が出来た。
 さあ次の5月は岩小屋沢西尾根〜ガビン1尾根〜八つ峰2稜、それともひねって白馬主稜〜突坂尾根〜サンナビキ山〜北方稜線なんてもいいかもしれない。
そして本音では、3月に横断したくてたまらない。(こればっかは休みを取れないことにはしょうがないけど)