●対象:飯豊前衛 長走川白滝沢〜タアバナ尾根〜裏川白蓬沢
●期間:7/21〜23
●メンバー:榎並、安藤 (慶應大学山岳部+OB会)


 飯豊は広い。地図を広げると、ふつう「飯豊」と言ってイメージする三国岳〜本山〜門内岳〜杁差岳の主稜線から、左右に前衛の支脈が複雑に枝分かれし、広大な「飯豊」が構成されているのが見て取れる。従って、主脈に突き上げるものだけでなく、それらの前衛の山にまで視点を広げれば、沢登りの対象の数もぐっと広がる。(そういえば、飯豊と言ってまず浮かぶ胎内川でさえ、その源は主稜線ではないわけだ)しかも前衛の沢は、登山体系ぐらいしか資料がないようなものばかりで、まだまだ未知の気分が味わえる魅力がある。さらに、標高が低く雪が早く消えるので、海の日の連休から十分楽しめる。いくつか見られる玄人筋の記録に触発され、地図を広げあれこれルートを考える内に、この遡下降を思い立った。


21日 (晴)
 津川駅から、予約していたタクシーに乗るが、この運ちゃん、長走林道と行き先を告げた途端、露骨にやる気をなくす。道が悪いと行く前から理由をつけ危うく水沢の集落で下ろされそうになる。しばらくは舗装された林道で全く問題ないが、やれ「Uターンの場所がない」など、ゴネる。なだめつつ進むが、結局、舗装が終わった途端下ろされる羽目になった。
 8:10発、予想外に追加されたアルバイトで暑さが余計に応える。ただ峠を越えて中流域に下りるという変わったロケーションのせいか、下り立った緑豊かな長走川流域は、下界と隔離された別世界の感が強く、自然と心がはずむ。どんより濁った水量の多い流れに少しびびりながら、林道を最後までたどり黒沢出合で入渓準備(10:20-10:30)。
 1箇所ゴルジュがあり右から巻くが、あとは「穏やかな中流部」という渓相が続き、白滝沢出合に12:00。本流の大滝沢はここで左折するので、一見白滝沢が本流のように見える。水量的にも、一支流とはいえない堂々としたものだ。大滝沢にはすぐ雪渓が見え、こりゃ白滝沢も楽ではなさそうだ。
 出合すぐの7m滝は左の藪から高巻き。落ち口に下りれないか探るが、その先は樋状に圧縮されたゴルジュに20mの直瀑が望める。仕方なく、ワンポイントのザイル使用で露岩を越え、大きく巻くこととなった。
 沢床に戻ると、小気味よく越えれるミニゴルジュが続き、ここは楽しいところだ。が、ゴルジュの終わった先で、ついに最初のSB登場!。ここから下山まで、なんと計15個のSBの処理が続くこととなる。安定して見えるSBも中にはあったが、学生も一緒なので、潜ることはせず全てを巻くか、上を歩くかして越えた。
 まず最初のは右からあっさり巻ける。
 次のは、雪渓上に乗るが、真ん中に大きなクレバスがあるので、ロープを出す。1ピッチで対岸の潅木につき、もう1ピッチで潅木を伝い沢床に戻った。
 3番目は左からの巻き。この辺りは、沢の周りは急だが、20m程上は段丘状になっており、そこまで上がると巻くのはたやすい。次のSBが見えたので、段丘を歩き、まとめて交わし、10mの懸垂。
 さらにこの後も3つのSBが表れ、一つは崩壊中の横をトラバース出来たが、あとは巻いてそれぞれ懸垂で下りた。
 段丘に幕場をあてにして、時間は遅いが、先へ進むと、狭いゴルジュの10m上に、引っ掛かった倒木に支えられるように残った見るからに悪相のSB登場。右側の段丘に上がり、やや傾いているがここで幕とする(標高550m地点、18:20)。


18日 (晴) 
 5:00発、懸垂で悪相SBの先の沢床に下りる。
 次のは、崩壊中の横を抜けるが、しだいに両岸が立ってきて、巻くのが厄介そうな地形となり緊張感が高まる。
 やがて150mほどの大雪渓。水の音は完全に消え、上を歩く。が、枝沢の出合で雪渓は切れ、次のそれとの間には15m程下の流れが見え、とても渡れそうもない。仕方なく、枝沢手前で右側の斜面に逃げた。
 枝沢を越え、しばらくはトラバースするが、その先巻こうとすると、かなり大きく巻かざるを得ない。雪渓に下ろうにも、20m程先で切れており、雪渓から下りて先へ進める保証はない。最悪、ロープを登り返す覚悟で意を決し、あえて危険な雪渓上へ懸垂。SB上にはまりこんだ倒木で、雪渓下へ次の懸垂が出来ることを確かめた上で、ロープを引いた。はまりこんだ倒木で懸垂ってのは初めての経験、これがなきゃあとはアイスポラードしかぐらいしか手が無い。
 これを下り、地図上で川がU字に曲がる辺りにかかると、雪渓は表れなくなる。幾つか小滝が現れるが、問題なし。
 久々に表れた次のSBは、一端、上にのり側壁の潅木を支点に15mの懸垂を試みるが、ここでアクシデント発生。回収のためロープを引くが、片方のみの末端しか手元にない状態で、ロープが動かなくなり、仕方なく草付を巻いて支点まで戻り引っ掛かりをずらし、再度懸垂。が、また動かない。今度は、両端が手元にあったので、あれこれ力をかけ引っ張るが、突然、力が抜け、ロープが落ちてきた!。支点からロープが外れたのだ。ただ、逆U字型に落ちてきたロープの間に、捨縄がかかってなかったことから、支点の潅木が折れたのではなく、捨縄が切れたものと思われる。ロープスリング同士を擦ると、切れる可能性があるのはよく知られているが(トップロープの支点を捨縄にしてはいけないのはこの理由から)、まさか懸垂の回収程度の力で切れるとは…。あとから考えると、登り返し後の懸垂時も、危険な状態であったと思われ、ぞっとした。
 さらに一つ雪渓を越えると、引上沢の出合(9:50)。本流の先には、3階建てのビル程はあろう巨大なブロックが、でんとそびえており、もはや遡行不能な様相を呈しており、ここで支沢に入れるのでまずはラッキー。が、引上沢も出合の10m滝を右壁直登で越えると、ゴルジュの奥に全く歯の立ちそうにない7m,12m2段の直バク登場。仕方なく、ロープを出し、右の泥壁をずり上がり巻き出す。
 枝尾根に上がると、引上沢の奥には70mはあろうかと思われる、多条のスラブ大滝が望める。ちょうど雨が振りだしたこともあって、水線に戻るのを諦め、このまま巻くこととした。大滝までも深く切れこんだゴルジュは一気に高度を上げており、連瀑となっている様子だ。それにしても、この大滝、いかんせん人目につきずらい場所にあるが、実に見事である。
 12:10、タアバナ尾根の稜線着。地図を見ると、引上げ沢は大滝の上は傾斜が緩く、穏やかな流れが続いていると予想され、当初はその部分を詰め、970m付近でタアバナ尾根を越える計画であった。ただ、一度上がった尾根から、また降りるのも美しくないし、これまでの雪の残り具合から、白蓬沢でも時間を食うことが予想されたので、このまま白蓬沢側へ下ることとした。稜線上からは、905mPの南面にスラブが望まれ、我々の取る下降路にもスラブが表れないか心配だったが、藪が途切れることなく続き一安心。ただ、白蓬沢に近づくと予想通り、雪渓が残っている。北西面と南東面の違いなのであろう、こちらは標高580m余りだというのに、びっしり谷を覆っている。20mの懸垂で雪渓上に下り立ち、しばし雪渓歩き。
 標高530mの二俣手前で雪渓は切れ、側壁のブッシュを支点に20mの懸垂でようやく沢床に下り立つ(14:40)。が、すぐ次の雪渓が表れる。かなり高さがあり、上がるには草付にザイルを出さざるを得ず、また下りるのも厄介そうだ。そこで、右側の支尾根から大きく巻くこととする。100m余り登り、640m付近からの枝尾根を下降、20mの懸垂で再び沢床へ。1時間半あまりを要したが、結果的にこの下りた先にもう雪渓はなく、ここをパスしたのは正解だったように思う。雪がなければあっという間の所が、際限なく時間を要してしまう、雪渓のやっかいさを実感した。
 20mの「く」の字型美バクを20mの懸垂で下降すると、今日も遅い時間となってしまった。
 と、これまで全く適地がなかったのが嘘のように、左岸に台地が表れ、ここを幕とする(17:50)。


19日 (快晴)
 もう雪渓は現れないが、小滝が続き2回の懸垂や、釜にドボンと飛びこんでみたり、最後まで飽きない。雪の消えた時期に、上部をスラブにつないで登れば楽しめそうだ。
 7:30、裏川本流に辿りつく。圧倒的な水量を、張られたワイヤーにビナを掛け手すり替わりにして渡る。
 裏川左岸の踏み跡に出るが、朝の冷気にブナの林がつんと澄んでみえ、美しい。
やがて林道に出る頃には、日があたりすっかり暑くなる。小荒部落まで歩き、ここでタクシーを呼び下山(10:20)。

全体に嫌というほど、雪渓に手を焼かされた。ただ、行って見なければ、どこにどういう状態であるか分からないSBに、それぞれ乗るor潜るor巻くと解を見つけ突破してくという点は、ある意味、沢登りのおもしろさが詰まっていて、実は楽しく充実した山であった。