●対象:越後/水無川北沢
●期間:10/9〜11
●メンバー:榎並、山田 (慶應大学山岳部OB会)


 山田さんの会社は、休前日は会社に個人の車を置けるとかで、金曜日の22時に神田に集合。ついさっきまで残業していたスーツを吊り下げ、一路関越道へ車を走らせる山田さんは、まさに社会人クライマーの鏡で頭が下がる。
 水無川林道途中のキャンプ場の広い駐車場に2時着、仮眠。

9日 (曇時々晴)
 車を奥に進めようとしたら、すぐゲートがあり工事のため立入禁止なので、ここから歩き出す(7:00)。オツルミズの出合で、最初の滝に取りついているパーティを見物した後、モチガハナ沢出合の林道終点に7:50。ここからデトノアイソメまでは踏跡があるとのことなので、少し上の方を偵察したが見つからず、あきらめる。3日間、抜きつ抜かれつ進むこととなる、ぶなの会の3人パーティと共にここから入渓した。
 デトノアイソメ(9:05-9:20)には、ここに集まる何本もの枝沢から押し出されたと思われる巨大な雪渓が残る。その雪渓の後退したすぐの台地には、新緑の時期のように生え出したばかりの草が見られ、この奇怪な地名がつくのに妙に納得してしまう何とも不思議な空間だった。
 しばらくは平凡な渓相だが、合わさる枝沢の景色が徐々に、険しくなってくる。特に左岸オカメ沢の上部はゴロゴロ岩の詰まったルンゼが切れこむスラブ帯で、悪絶そのもの。これに伴って本流もしだいに小滝が表れ始め、やがて釜の深い滝の向こうに大スノーブリッジが望まれる御月山沢出合のゴルジュ帯に差しかかる。
 右のルンゼから巻き上がると、ブッシュ帯のバンド状の部分に自然に導かれる。途中で、御月山沢の1本手前のルンゼに40mの懸垂(25m降りてそこからトラバースも可)。手持ちの資料だと、御月山沢に直接、懸垂するような書き方だったので、懸垂点がここでいいか少し迷ったが、降りてからはスラブ帯の中の明確なバンドをたどって御月山沢を渡れたので、これでいいのだろう。この後、再びブッシュ帯をトラバースし25mの懸垂で沢床に戻る。計2時間の高巻きとやはりスケールがあるし、いくら資料が多くても、踏み跡を黙って追うとはいかないのは、さすがに越後の沢だ。
 西沢の出合から、西沢と本流の中間尾根に上がり、ブッシュ帯をトラバースし35mの懸垂で、50mの関門の滝の手前に降りる。関門の滝は高いスラブの側壁に囲まれ、遠目にはとても登れなそうに見えるが下から見ると、確かに左のカンテがルートになる。
 1ピッチ目、ジャンケンに勝った山田リードで、35m程ザイルを伸ばし、錆びたハーケンが2本残る狭いテラスにハーケンを3本足しピッチを切る。
 2ピッチ目は私がリード。ビレイ点のすぐ上の何手かが、スタンスに乏しく悪い。念の為、下から山田さんに足を押さえてもらいながらこれを越える。高度感がある上、自分達で打ったハーケンでのビレイなこともあり、恐かった。
 このピッチで、落ち口から続く2段10m樋状の滝もまとめて左のカンテから越えると、曲がって右から落ちる滝の手前の絶好のテラスに着く。15:10と時間はやや早いが、ここで泊まることとした。後続のぶなの会が、この上の草付でビバークすることになった様子が、ヘッドランプの光で伺えたので、これで正解なようだ。


10日 (快晴)
 6:00発。目の前の5m滝は関門の滝へ続く樋状の水流をまたいで右から取り付く。私が空身で越え、その後念の為、ロープを出し山田さんを確保した。
 すぐ上10m滑状の滝を楽に越えると、2段15mの滝。上段の傾斜が急で厳しそうなので、右の小岩峰の右を強引な垂直やぶこぎで巻く。
 だいぶ上に追い上げられてしまい、50mの斜め懸垂で草付スラブ上の小潅木に降り、さらに15mの懸垂でようやく50mの滑滝の下に降り立った。
 滑滝を快適に越えると、北沢が100m大滝、真沢が150m幣の滝を落とす両沢の出合に着く(8:25-8:40)。
 これほど、壮観な沢の出合はそうはない。ただふつうの沢で30mの大滝とかが表れると、「うわ、でかい」と思うのだが、ここでは150mあるように感じられないのは、まわりに広がったスラブなど、すべてのスケールの桁が違うからなのだろう。
 北沢の大滝は途中までは、階段状のスラブを登るが、水流から離れすぎていて、その意味では水線を直上する真沢幣の滝の方が、登り応えがあるように思えた。最後の一段でロープを付け、榎並リードで左壁〜右上バンドを伝い、ちょうど落ち口に抜けた。
 この上も連瀑が続く。右の草付からブッシュ帯に逃げ、二俣の下に30mの懸垂で戻る。下手に草付を巻くより、その上のブッシュ帯に入った方が安全だし、時間も早いことが多いのだが、バカの一つ覚えで藪を漕いでる気もし、この辺りのルート取りのセンスの向上は今後の課題であろう。
 二俣(11:30-11:45)からは今度は左の尾根まで70mあまりの高度を上げる大高巻き。よく地図を見るとこの尾根は、西沢の出合に落ちる尾根で、関門の滝下のゴルジュを巻き出すときに使ったものだ。沢があまりに急に高度を上げるので、尾根の方も追いつくのが大変で、わずか70mで、またその尾根に上がれるような地形になったのだろう。
 しかし考えれば、西沢出合からここまで、関門の滝と大滝を除き、ほとんど高巻いているのだ。まったく参ったもんだと思いつつ、10mの懸垂で沢床に降りると、そこはこれまでの渓相からは信じられないような穏やかな河原であった。正面には望まれる紅葉したグシガハナの稜線がまた美しい。厳しい部分を抜けた後なので、余計に美しさが際立ち、非常に印象に残る景色であった。
 この後しばらくは小滝を交えながら、両岸の低い穏やかな渓相だが、このままで終わるほど、水無川は甘くない。やがて両岸が40mあまり競り立つようになり、スノーブロックも表れる。最初のそれは崩壊した脇を、すり抜けることが出来たが、次には見事なブリッジが表れる。
 厚さがかなりあるわりに、脚は非常に細く、不安定な状態だったが巻くという選択肢は考えられず、意を決し下を走り抜けた。
 この後も、両岸からの落石で埋め尽くされた深いゴルジュの底を、いつ出るやも知れぬ次の雪渓の影に怯えながらの遡行で、難しい滝は全くないが、なんとも言えぬ緊張感が続いた。
 幸い、ブリッジは表れず、二俣に15:00‐15:20。急な岩溝で直線的に詰めあがる右俣を嫌い、穏やかそうに見える左俣に入るが、こっちもすぐ同じような景色となる。水のないルンゼを正面に分け、左に直角に曲がるとその先に15mの滝が望まれる。これを越えるのには時間を食いそうなので、少し戻って、比較的落石の危険の少なそうなところを選び(16:00 )泊まる。


12日 (快晴)
 6:00発。15mは水流右の小岩峰のまた右の傾斜はあるが階段状となった岩を山田リード。ピッチを切った潅木からは、草付をトラバースすれば沢床に戻れそうに見えたが、草付が悪そうだったので右の尾根に周りこんでもう1ピッチ、ロープを延ばした。
 この尾根からも、20mでも懸垂すれば沢床に戻れそうだ。しかし、昨日幕場で読みなおした、他会の記録によるとこの先にもう1つ悪い滝が出てくるらしい。この尾根なら藪漕ぎの苦労はなさそうなこともあり、このまま稜線に抜けることにする。草付というか草原というかの斜面でぐんぐん高度を稼ぎ最後の10分弱の藪漕ぎのみで、グシガハナ分岐のすぐ中ノ岳よりで遡行を終えた。
 駒の山頂を空身で往復しながら、最後、巻いてしまったことが妙に心に引掛った。思えばこの沢は、夏前から山田さんと、今年の目標にと、話てきたものだった。「どうすれば北沢に行く力がつくか」と目標を意識するると、どうしても細かなことに目が行ってしまう。そういう姿勢で望んだ結果、最後の滝をあっさり巻くことにしたのが、登攀力の不足を示してるという捕らえ方をしてしまうのだ。この澄んだ秋空の下に広がる越後の山並みの中では、そんな些細なこと、どうでもいいはずなのに…。もっと自由な遡行者でありたい、充実感の一方で、この何とも言えぬ苦い思いを抱えながら、下山の途に着いた。
(グシガハナ分岐8:10-9:40、駐車場13:10)