●対象:利根川本流
●期間:7/28〜8/2
●メンバー:榎並、川島 (慶応大学山岳部)


7/28 (曇)
須田貝発電所入口18:45〜20:30矢木沢ダム
 タクシー代をけちり、湯の小屋温泉行の最終バスを利用し、2時間弱歩く。工事中の土産物屋らしき建物の中に入って寝る。


7/29 (晴一時雨)
TS4:30〜大白沢13:15〜東千ケ倉沢手前19:05
 ダム建設時にはトラックが通ったという湖岸の道だが、荒廃が著しい。一日、フルにヤブを漕ぐが先は遠い。


7/30 (晴のち曇)
TS5:00〜割のカヤ沢11:00〜14:20水長沢14:20
 
湖岸道も東千ケ倉沢出合まで。ここからは踏み跡も全く拾えない荒れ様。湖岸の急傾斜のトラバースのヤブを前にして歩みはいっこうに進まない。しかもヤブを漕ぐ我々の足下を昨日から何艘もボートが湖面の風を切って奥へ駆け抜ける。自家用のボートを持ち込む以外利用出来ないという調べだったが、帰って渓流釣りの案内本を立ち読みすると、チャーター可能らしい。挙げ句、途中のヤブでライフジャケットとバイルを引っ掛け落とす。1時間余り探して両方とも回収したが、気分は最悪。
 破れかぶれの状態でふと、湖に使ってヘつって行く方法を思い付く。足が付かない所もあるが、流れはないし、水温も暖かいので問題なく歩ける。結局、この後はさっきまでの苦労が嘘のように、会長に水長沢出合に着き、早い時間だがTSとする。
 しかしあのままヤブを漕いでいたらここまで二日は要したであろう。かつて「1日で水長沢出合に着くことが奥利根に入る資格」といわれていたことを考えると、荒廃の進行度はひどい。ボートのチャーターか、平ケ岳から水長沢新道下降、楢又川〜水長沢と継続(面白いと思う)しての入渓を考えた方がよさそうだ。
 ちなみに水長沢出合では、メジロが大発生していた。このメジロというのは、アブの一種なのだが、凶暴で容赦なく刺してくる。しかも手で叩いて殺される瞬間まで刺す意志を捨てず逃げることがないので、まさに生死をかけたバトルが繰り広げられるのだ。とてもたき火などする気にもなれず、ツェルトの中にこもりっぱなしであった。


7/31 (曇) 
TS4:50〜井戸沢7:35〜9:40越後沢9:55〜15:15滝ケ倉沢
 しばらくは開けた谷歩きだが、これからのことに胸が高鳴る。
 シッケイガマワシの又右衛門淵は、朝イチの冷たい水を嫌い軟弱にすぐ巻くことをきめる。右に明瞭な踏み跡があるが、かえってそれに惑わされて降りるタイミングを逸してしまい、これに1時間もかかってしまった。
 「オイックイ(核心のゴルジュ帯)の雪の量の目安」といわれる井戸沢スノーブリッジ(以下SB)じは痕跡すらない。
 続く巻淵は、7mmロープを出して、釜の右を泳いで、右壁に這い上がって突破。越後沢出合からは左側の明瞭な巻道で剣ケ倉沢出合へ。本流を跨げるという“ひとまたぎ”がここにあるはずだが、どれかわからないままだ。
 ともあれ、ここから右側に移りヘビ山の巻き道に入る。40分程これを追うが踏み跡が判然としないので、途中のガレ場をうまく使い懸垂せずに川床におりる。
 ここから牧ケ倉沢までのゴルジュは水量が多く、度々泳ぎを交えて進む。なかなか楽しいところであった。滝ケ倉沢出合の借り払われたテン場で泊まるが、本日の敵はやぶ蚊。快適な生活とは遠い。川島はたいしたことがないのだが、私はかゆくて発狂しそうだ。メジロと違い、小さくてなかなか殺せないのでたちが悪い。


8/1 (曇時々晴)
TS4:35〜6:15中越後沢SB高巻8:35〜裏越後沢9:40〜13:15丹後沢13:25〜15:05ハト平
 いよいよ核心のオイックイである。両岸には草付とスラブが30m以上そびえ、不安定にSBが残っていると非常に苦労しそうだが、今回は幅の狭いゴルジュが続くだけで、水量も多くなく、牧ケ倉沢出合までのゴルジュ帯よりかえって楽である。
 しかし、利根川は例えば、南会津大幽西ノ沢などのように雪渓が消えると楽になる沢であるが、柳又谷クラガリ峡のように隠れていた悪いゴルジュがあらわれると手に負えない沢もあり、雪渓の残る沢ではそのあたりの想定が重要である。その点、利根川は記録が多いので、滝やゴルジュをどう通過するかという以上に、雪の量を比較することができるのが大いに助かる。
 写真が豊富な「奥利根の山と谷」「利根川水源紀行」の古典二冊の他に、雪の寡多では寡雪92年の「一期一会の渓」(高桑信一)の記録、多雪95年の「日本の渓谷96」の沼田山岳会の記録が参考になる。実際、本流で一番雪が残るといわれる中越後沢出合付近に、長さ100m余り、高さ20余りの唯一のSBが現れた。ここは50m程下流に戻り、右のルンゼ状草付スラブにザイルを伸ばして巻く。
 これ以上力を入れたらこの草抜けんだろうな、ぎりぎりで体をあげる部分があり、このピッチに丸々1時間かかってしまった。ヤブと草付のコンタクトラインをトラバース、潅木支点に40mのやや斜めの懸垂で、SBの出口にぴたりと降り着く。やはり雪の多い地域の沢ではロープが二本あると楽である。今回の我々のように、9mmと7mmの二本にすれば、そう重くもあるまい。
 裏越後沢出合までくると、両岸の草付の高さが明らかに低くなり、オイックイも終わる。なお、この出合は、幕営可との情報もあるが、右からの土砂崩れで渓相が変わったとみえ、とても泊まれない。まぁ沢の資料なんてこんなもんであり、まして左右どちらから巻くかなど当てにするものではない。
 魚止滝15mは左から巻く。草付の一歩が急な程度でノーロープ。
 続く19の沢出合の8m滝は下でしばらくどう行くか悩む程、悪く感じられ、左を巻くのに20mロープを出すが、取り付いてみるとそれほどでもなかった。
 大利根滝20mの右壁にロープを伸ばし、すぐ上のハト平で、この日もやや早い時間で行動を終える。幕営適地の乏しい沢だけに日没までの行動を覚悟していたので、こうもうまくテン場が切れるとはラッキーである。


8/2 (ガス一時雨)
TS4:35〜人参の滝9:30`13:40水源碑・遡行終了14:10〜18:50野中
 曇天の中、出発するが、6時位から雨が降り出し、途中からずっと強くなる。ちょっとした小滝を抜けて、ふと気付いた時には、いつの間にか水量がかなり増えている。10cm程増えただろうか?源流近い傾斜を流れる水には勢いがつき、また濁っているので足下が見えず水流どおしにはすすめない。
 しばらく進んだ平坦地でツェルトをかぶって水が減るのを待つことにする。両岸が低い上流部で、すぐに逃げられるのでさほどのプレッシャーはないが、これが中下流域のゴルジュだったら非常に危険な状態になるだろう。長く待つのを覚悟したが、雨が小降りになるとみるみるうちに減水し40分程で行動を再開した。
 ここからは源流の滝登りが続く。5mの滝で苦戦。私が左からの巻き気味に登るルートを偵察したが、草付で足を滑らせ4mほど下の水中まで落ちる。今度は、滝の右を空身で登る。トラバースのワンムーブがきつかったが、これを突破し7mのロングスリングでザックを荷上げした。この7mのロングスリングでの荷揚げは、この他にも3・4回使う場面があり重宝した。登れるか登れないかがはっきりとしてしまう岩登りと違い、直登、高巻、また荷揚げや果てはショルダーまで、ありとあらゆる手を考え試行錯誤できるのが沢登りの楽しさであろう。
 すぐ上の8m滝は左の草付に30mロープを出して巻く。上から見るとさきほどの5m滝とまとめて巻いてもいいように思う。このあたりは落差がなくても、釜が深いため水線を登れない滝が多く、思ったより時間を食う。
 人参滝15mは左壁直上、深山滝20mは中断でシャワーを浴びながら、左から右に移り、赤沢滝15mは水流通し、水上滝15mは右から巻き気味に落口へ。赤沢滝以外は、ザイルを出した。
 深山滝では、ザイルの張りはじめで浮石に乗り、2m滑る。さっきに続いてのチョンボスリップで反省する。このこともあり、どの滝もスタンスは豊富だが、ルートを見る目が問われ緊張した。滝にせよ、ゴルジュの突破にせよ、沢登りには確かなルートを見る目が求められているように思う。
 水上滝をこえると、水量はグンと減り、このちょろちょろとした流れが、我々の遡った跡を辿り、やがては大河になると思うと感慨深い。ただ水源の三角雪田は痕跡もなく、稜線もガスに巻かれて景色がないのは残念だ。
 あとは水源碑の前で沢道具をしまい、丹後西尾根の一本調子の急坂を下り、この日中に六日町に降りた。