科学研究委員会・資料委員会報告
戸隠修験道の講演会と探索山行
●講演会戸隠修験道について
日時 1988年7月1日(金)
午後6時半〜9時
場所 日本山岳会ルーム
講師 武蔵大学教授 宮本袈沙雄氏
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〔講演要旨〕
849年頃、飯縄山で学問行者が祈念し、独鈷を投じたところ、九頭竜が現れ、戸隠山を示した。行者は現地に出かけて龍を岩戸で封じ、熊野権現を勧請して奥院を建てた。室町時代になると宝光社や中社も建てられ、雨乞の地主神である九頭龍信仰とも相俟って、顕光寺は三千坊と称され、全国的に勢力を広めた。この頃、山伏は洞窟や回峰での修行も行った。
しかし江戸初期になると実力的戦斗的な山伏は法度となり、儀礼化した僧侶的存在となった。天保の頃は、中央に戸隠権現、左に飯縄権現、右に白山権現の幣を供える神事も見られ、次第に修験宗化し、村の祈祷師として里修験も行なった。明治の廃仏毀釈で戸隠神社に改称、飯綱とも別れて現在に至っている。
一般にわが国の修験道は時代とともに次の四つの型を経過して来たと考えられる。@山篭型、那智の千日修行に見られるように、聖の居る深山や岩窟に篭り、穀断ち、水断ちなどの修行をして霊力を得る。A科撒型(回峰型)武力集団を目指す僧兵が比叡山や天峰など回峰によって宿を渡り歩き、特殊な力を得た。山伏らしい実践宗教、以上の@とAは中世まで盛に行なわれた。B御師型、江戸に入って山伏集団の戦斗力は解除され純粋な僧侶的存在となり、山を拠点にした御師となった。 C里型、民間からの要望にも応える修験宗ともいえるもので、本山派・当山派などの別れ、村の呪師・占師として里修験を行った。
戸隠はBCの傾向が強く、求菩提や羽黒は@A的であるといえよう。
出席者 平戸孝夫,杉山正洋,進藤波男,篠崎仁,鴫原一男,松本欣一
中村あや 岡沢祐吉,久保孝一郎,小松原一郎,石田要久,高橋詞,高田
真哉,石井恵美子,中村純二,千葉重美,松丸秀夫,梅野淑子,井沢信久
浜口欣一 原謙一 小山内正夫
(中村純二)
@戸隠探索山行
7月16日(土) 講師の二沢久昭氏は長野高専教授、戸隠神社神官、且つ今回の宿舎である二沢旅館の経営者と一人三役のお忙しい身で、二日間密度の濃いお世話をして下さった。二沢旅館は、最近まで正智院と呼ばれた観光寺戸隠中社の宿坊であった。
午後4時から正智院に伝わる貴重な資料の数々を見せて頂いた。古文書、画像、装具など。
中でも戸隠講の方々も中々拝見できないという、廃仏毀釈の手を免れたご神体の仏画は保存状態もよく、まだ顔料も乾いていないかと見紛うほど朱色や緑色もあざやかであった。
午後5時半より二沢氏の講演
「九頭龍信仰について」
〔講演要旨〕九頭龍とは、九頭一尾の龍で九頭龍大神と呼ばれる戸隠山の地主神であり、本地は弁財天である。奥社脇に九頭龍社がある。
学問行者が九頭龍を石屋に封じて寺を建て戸隠寺としたが、『戸隠山顕光寺流記』には「手力男命が天の岩戸を隠し置くにより戸隠と言ふ。」とも記されている。『能因歌枕』にも、「とがくし」の文字があり、すでに平安中期には中央に知られていた。また『梁塵秘抄』にも「信濃の戸隠」の言葉がある。九頭龍社を含む顕光寺は1110年には比叡山延暦寺の末寺となり、天台系の本山派に属し、戸隠三千坊といわれ隆盛を極めた。
江戸時代には幕府から千石の朱印を与えられ、全国的に見ても規模の大きな寺となったが、明治初年の神仏分離令により、頭光寺は戸隠神社に改称されるとともに、僧も世襲の社家となり、現在は神道一色で仏像、仏画もほとんど残っていない。
7月17日(日)二班に分かれ、A班は戸隠山へ、B班は戸隠高原の修験探索に出かけた。
B班は二沢氏の案内で津村信夫詩碑、狐に乗った烏天狗不動尊の姿をした飯縄大明神の石像、守護不入の碑などを見て中社に出る。小雨の降る越水ヶ原を経て、随身門(かつての仁王門)をくぐり、大きい杉木立を進んで奥社に出た。うねった蛇を思わせる戸隠山が眼前である。A班と合流して中社に戻ると、奉納の太神楽がちょうど始まるところであった。
「天の岩戸開き」の伝説をとり入れた
古い様式の神楽で、神官たちにまじって無心に舞う二人の童女の姿が印象的であった。篠崎仁)
A班20名は戸隠奥宮、九頭龍社を経て戸隠山に向かった。霧が去来して何重もの’重直の岩壁が現われては消える様は中々の趣であった。五十間長屋で小休止後、雨となったので百間長屋までで引返すことに決め、奥社に戻ったところB班に合流できた。以後、三々五々、明るい戸隠高原を散策、森
林公園、鏡池、宝光社を回ったり、中社のお神楽を拝観したりした。 終りに信濃・岐阜支部からの参加や赤羽支部長からの地酒の差入れなどに対し感謝致します。
参加者 二沢久昭、久保孝一郎、鈴木嶋夫、岡沢祐吉、平沢利夫、丸茂キク
エ、日置邦、丸山冬木、石田要久、石田尭子、篠崎仁、宮前淑子、中村
あや、入谷浩右、大塚玲子、藤井茂雄、国枝武喜、水野美代子、杉山清春、野
々口文子、松林のり子、松丸秀夫、中村純二、原謙一、高田真哉、高橋
詞、浜口欣一、梅野淑子、石井恵美子 以上29名
(中村純二)
山526 (1989/4月号) |