科学委員会
KAGAKU            

 

1984年
◆「山の気象講座」 全10回

1984年
(昭和59)11月8日〜1985年(昭和60)9月12日
山岳会ルーム
講師:大井正一(山の気象研究会々長)
第1回―雲の分類と大気の熱構造」 11/8
第2回―放射」
 12/6
第3回―大気の熱力学」 1/11
第4回―コマグラムと大気の安定度」 2/14
第5回―大気中の気塊の運動と雲の生成、山の影響」 3/14
第6回―降水の物理」 4/11
第7回―運動方程式と連続方程式 コリオリの力」 5/ 9   
第8回―前線と気団」 6/6    
第9回―ジェット気流と温度風」 7/11  
第10回―500mb高層天気図の見方、富士の笠雲」 9/12 

 ●山の気象講座開講
 山登りに気象のことが重要なことはいうまでもありませんか、今回は天気図の見方、書き方といったことより、もう少し原理的なこと(例えば雲のでき方、風の吹き方、雨のでき方など)について勉強会を開きたいと思います。本会会員で気象の専門家の大井正一氏に講師をお願いしました。同氏の女子短大などでの講義の経験を生かして頂き、やさしく、素人にわかるようにお話し頂くようお願いしました。

 講座の予定題目はつぎの通りです。(時間は原則として午後6時半より約2時間)
第1回11月8日(木)10種雲級の見分け方、高低気圧との 関連性
第2回12月6日(木)雲の変種、地形雲、空模様による天気判断の基本
第3回 1月10日(木)気圧と高さ、上昇気塊の温度変化
以下毎月1回(日時未定)。
2月、大気の垂直安定度、雲の発生条件。
3月、雲、雨、雪のでき方の物理、樹氷、雪崩など。
4月、風の高度分布、温度風、ジェット気流、ヒマラヤ。
5月、大気大循環に伴う問題、世界の山の気候。
6月、低気圧の主体構造、上層天気図の見方。
7月、天気予報、台風雷、遭難例。
9月、衛星雲写真の見方、遭難例。
 教科書は新版気象学概論 山本義一著 朝倉書店 2000円
 (各自購入)を使いますが、必要に応じて参照する仕方でやります。
高校程度の数式がでてきても、数学の基礎は必要ではありません。
質問、討論に十分の時間をとりますので、どなたでもふるってご参加下さい。
準備の都合がありますので、参加ご希望の方はなるべく早目に(締切10月末)、当委員会宛、住所、氏名、連絡電話番号をおしらせ下さい。
会員外の方も会員の紹介があれば付けます。
聴講料は未定ですが、講師謝礼、資料代などとして若千頂くことになるかもしれません。
                                              
山471(1984/9月号)

科学研究委員会報告

第一回山の気象講座

昭和59年11月8日(木)
            日本山岳会ルーム---
       講師 大 井 正 一

 講義の概要

(1)巻雲(すじぐも)の見方 分類法5種、4変種、1補助雲、氷晶からできている。
雲の様子がばらばらなら好天、組織的なら悪天の前徴。
 低気圧の前方に吹き出している時、日本海に撹乱が発生した時、組織的で悪天(同志社大の
遭難)。組織的でも天候悪化しないときもある。ジェット気流に伴うもの。(多数のスライドで説明があった)

(2)教科書(新版気象学概論)による考察 
大気の熱構造 地上から約11キロメートルの高さまで対流圏、100メートルにつき0.65度の割合で気温減少、対流圏の上限(かなとこぐもの上面)は低緯度(例鹿児島)で16キロメートル、中緯度(仙台)で10キロメートル、高緯度(稚内)で7キロメートルである。対流圏の上は、50キロメートルの高さまで成層圏。気温は上昇。

 成層圏にはオゾン層があり、オゾンは太陽光中の紫外線を吸収し、生物を護るとともに地球の冷却を防ぐ。

 放射 天気現象を起こすエネルギー源は太陽放射で、その波長は1ミリメートルの電波から 1Å(オングストローム)のガンマ線に及んでいる。大気(窒素、酸素)、水蒸気、炭酸ガスは波長10―13ミクロンの赤外線は吸収しない(窓領域)。

 したがって人工衛星からこの領域の波長の赤外線写真で地球を写せば地球の海陸や巻雲からの赤外放射による写真がとれる。(新聞にのるひまわり画像)。一方、波長0.8−0.4ミクロンの可視光による衛星写真では太陽光の反射により下層雲がとれる。この可視光の場合は当然ながら日中のみである。

 散乱 可視光の散乱には二つの法則がある。窒素、酸素などの空気分子はレーリー散乱を行ない、空間の凡ての方向に波長の四乗に反比例した強さの光を送りだす。したがって可視光のうちでは波長の短い青色の散乱光が一番強く、空が青くみえるのはこのためである。

 ジェット機上からは空は紫にみえる。紫は可視光のうち一番波長の短い光であるが、地上から空が紫色に見えないのは地上に達する前に紫の光が多く失われるためである。日没時など太陽高度が低くなると、太陽光が大気を通過する光路が長くなり、波長の長い緑、黄、赤などの光も散乱され、空が黄や赤に見える。

 他方、過冷却水滴(大気中の水滴はマイナス30度くらいまで氷化しない)や塵埃はミー散乱を行ない、前方に波長にほぽ逆比例する強さの光を送りだす。このため雲は白く見える。

 なお過冷却水滴からなる雲は輪郭がはっきりしている(積雲雄大)。氷晶化すると輪郭がぼやける(積乱雲)。

出席者 加治川栄二、中村小一郎、南川金一、重村清、長谷田英雄、原田衛、三栖寿生、深谷諭、榊原保志、林桂子、前野十行、大森弘一郎、斎藤かつら、松丸秀夫、小西圭二、中村純二、高橋詢

         (高橋 詢)
山475 (1985/1月号)

UP


 山の気象と気象学(2)

科学研究委員会主催の第2回講座が59年12月6日にルームで行なわれた。
講師は大井正一氏で、その概要は次の通り。

1、雲の話  氷晶より成る雲は上層雲で、巻雲(すじぐも)、巻積雲(さばぐも)、巻層雲(まきぐも)の三族である。巻積雲は蔭がなく、鱗は小さく、巻雲と共存することが多く、高気圧圏内にある。鱗はベナールセルと呼ばれ、雲の下面が地球の放射で熱せられ、上面が自体の放射で冷やされ対対流を生じるために発生する。

巻積雲は4種、2変種、2補助雲に分類される。巻層雲は薄い白い雲である。代表的なものは全天白いベールをかぷせたようになり、太陽や月のまわりに「かさ」が見えることがある。かさは視半径22°の光輪で、雲を形成している氷晶が光を屈折してできる。巻層雲は温暖前線上こあるため、翌日、雨となる確率が高い。

2、気象学の基礎  人工衛星にのせた分光計で地球からの放射を波長毎に観測すると、赤外領域のうち波長15μm付近と10μm付近に放射強度の弱いところがある。これはそれぞれ炭酸ガスとオソンによる吸収に対応し、地表からの熱放射がこの波長領城では宇宙空間に逃げられないことを示す(温室効果)。波長11μmの波長領域ではこれら物質による吸収がないから、海陸や上層雲が昼夜の別なく写せる。波長0.4〜0.8μmの可視光では山の積雲などはよく写るが、昼間のみに限られ、天気予報には使えない。

 太陽からの光の地球上での熱収支をみると年平均、赤道では1平方mあたり、1分間に0.10カロリーの放射が入射し。極では0.15カロリーが宇宙に逃げていく。このエネルギーを平均化するため、中緯度では低気圧が発達し、冷たい空気を南に、暖かい空気を北に運ぶ。

 つぎに大気圧と高度との関係について述べよう。二つの異なった高度のところの間の気圧差は、その間の大気気柱の重さに等しい(静力学方程式)。 この式を地上から任意の高さまで積分した形の式を測高公式といい、気圧と高さとの関係を与える。高度計はこの原理によるものである。
この際、大気の気温は対流圏では高さとともに直線的に減少する(100mにつき0.6六度)ことを考慮に入れる必要がある。登山するとき各地点で気圧と気温を測りながら上れば、自分のいるところの高さを知ることができる。明治初年に外人がこの方法で富士山の高さをはじめて求めたと思われる。

出席者 梅野淑子、大木淑子、斉藤かつら、榊原保志、重村清、高橋詢、竹内孝、中村純二、長谷田茂雄、林基生、深谷諭、古川利雄、前野十行、松丸秀夫、三栖寿生、山崎健

                 (高橋詢)
山477(1985/3月号)

UP

 山の気象と気象学(3)

講師大井正一氏
昭和60年1月10日(木)
日本山岳会ルーム

 雲の見方  中層雲は0℃からマイナス30℃までの過冷却水滴より成り、高積雲(うろこぐも)と高層雲(おぼろぐも)、から成っている。高積雲は巻積雲と同じだが、かげがある。ベナルセルが大きい。日月が半径2〜5度のコロナをつける。 彩雲等の点で見分けがつく。一般にレンズ状、層状をしている。これに対し、高層雲は日月がスリガラス状に見え、間もなく雨になる。

 熱力学  コップに水を入れ、その中の水蒸気の示す圧力を水蒸気張力e、蓋をした時の圧力を飽和水蒸気張力Eとしたばあい、e/Eを%で示したものを湿度という。Eとしてはマイナス30℃まで、過冷却状態の水蒸気圧力を用い、水蒸気圧は使わない。Eは温度Tだけの関数で大気の圧力pとは無関係である。

 熱力学第一法則によれば熱気泡は上昇するとき膨張して仕事をし、その分だけ、100メートルにつき1℃の割合で冷却する。この値をγδ乾燥断熱減率という。上昇する際に水蒸気が疑結し雲粒となる場合、(雲の中)では凝結熱が出るために、百メートルにつき0.5℃しか冷却しない。この値を湿潤断熱波率γωと呼ぶ。γδとγωに対し、実際に気温が高さとともにに減っている割合を単に減率γで表わす。

 大気中の任意の層について、γがγδより小さい場合には、その層の中の気塊は上下の仮想変位を与えても、その気塊は元の位置に戻ってしまう。 これを安定という。逆にγがりより大きいと仮想変位を受けた気塊は元の位置に戻らなくなってしまい、対流が起きる。このことを不安定という。 γがγδに等しい時は中立という。

 気塊が上昇するとき、不飽和の間はγδで降温する。雲が出来て飽和となればγωで降温する。然し下降にあたっては、何れの場合もγδで昇温する。 従って気塊が山を越えてから下り、山の手前で雲が出来れば、気温は、始めより高くなる。これをフェーン現象と呼ぶ。夏に関西や裏日本で異常に暑くなるのはその一例である。

出席者 深野良夫、深谷諭、長谷田茂雄、石井恵美子、前野十行、南川金一、三栖寿生、松丸秀夫、中川和道、中村純二、大木淑子、大森弘一郎、斉藤かつら、重村清、高橋詢、梅野淑子

お知らせ気象講座に出席できない方のために、プリントをお送りします。希望者はプリント代
(10円切手×回数)郵送料(60円切手2枚)を同封の上、左記宛ご請求下さい。
〒165 中野区若宮3−14−13 大井正一

   (中村純二)
山478 (1985/4月号)

UP

山の気象と気象学(4)

 日時: 1985年2月14日(木)
講師: 大井正一氏、場所:本会ルーム

 以下大井氏のお話の要点を、頂いた原稿に基づき記しますが、今回は教科書中の図(エマグラム)の説明が中心であったので、講座に出席しておられなかった方には分りにくい点があることを御容赦下さい。

*

 雲の見方(4) 下層雲は水滴より成り、層積雲Sc、層雲St、乱層雲Ns、の三種。層積雲Sc(かさばりぐも)は3種、7変種、3補助雲、より成つている。Scは積雲対流が不充分で、雲が積雲を作るまでに到らず、水平方向に拡がった状態を示す術語であって、殆ど毎日見られる。ロール状、うね状の蔭を示す部分があり、冬は全天を蔽うことがある。

 エマグラムと温位 前回学んだように、乾燥空気(水蒸気を含んでいても不飽和ならば近似的に乾燥空気として扱える)の気塊は100メートル上昇するごとに断熱膨張により温度が1度下がる(乾燥断熱減率γd)。一方湿潤空気(水蒸気飽和の空気)では湿潤断熱減率γωが定義される。γωは水蒸気が凝結する時の熱の放出があるのでりγdより小さく100メートル当り0.3〜0.5度である。さて空気の高度と温度との関係を示すためにエマグラムと呼ばれるグラフか用いられている。エマグラムは縦軸に高さ、横軸に気温が目盛ってある。

乾燥断熱線(以下γd線と略称、赤色線で示す)、湿潤断熱線(以下γω線と略称、緑色線)が引かれている。さらに等飽和混合比線(以下Xo線と略称、茶色線)も引かれている。飽和混合比Xoとは湿潤空気1kg中に含まれる水蒸気のg数として定義されている。今一例として気圧910mb、7℃、相対湿度50%の気塊(熱気泡、パーセル)があったとする。A点を通るXo線は7g/Kgのところであるが、相対湿度50%とすると、その気塊の混合比xは3.5g/kgとなる。910mbの飽和混合比3.5の点をB点とする。B点が露点Tdで、910mbではマイナス3度である。またA点を通るγd線が千mbの等圧線(横軸に平行)と交わる点を温位θという。今の例での温位θは絶対温度で288度(15℃)である。上昇する気塊のθは一定である。すなわち一つのγd線上を変化する。

 またA点を通るりγd線がB点を通るγω線と交わるD点は、A点にあった空気が上昇し断熱膨張により温度が下がり、水蒸気が飽和して雲をつくる点て、凝結高度(または雲底高度)という。気塊はD点より上では雲をつくりながら、今度はγω線に沿って上昇する。なお湿澗断熱線が千mb等圧線と交わる点は偽湿球温位という。

 乾燥大気の安定度 毎日測候所でラジオゾンデによって観測される各高度における気圧、気温、露点温度をエマグラム上に記入したものを、その時刻の大気の状態曲線γという。
エマグラム上でこの状態曲線が乾燥断熱線より立っていれば(すなわち傾斜が急)、その気塊は安定、逆に寝ていれば不安定という。

 安定の場合はその気塊に上下の仮想的変移を与えてもはじめの状態に戻ろうとする。不安定な場合は始めの状態から離れようとして対流か起り、天気悪化のもとになる。安定の時は状態曲線は高さが増加するに従って温位θが増加していることになる。逆に不安定の時は高さとともに温位θが減少していることになる。この場合を超断熱といい、雪の原因となる。

聴講者 17名
                (高橋恂)
山479(1985/5月号)

UP

 山の気象と気象学(5、6)

 日時: 1985年(昭和60)3月14日(木)、4月11日(木)
講師: 大井正一氏、場所:本会ルーム

 第5回講座

 前回に引続いて雲の分類、大気中の気塊の垂直方向の運動と雲の生成、山の影響の話と豊富なスライドによる説明があった。

 別掲の図は前回からしばしば出てくるエマグラムである。なお使用教科書は『新版気象学概論』。

 第6回講座

 雲の見方 対流雲は積雲Cuと積乱雲Cbの二種である。Cuつみぐも、は底は平らで、頭はド−ム状で対流を示している。輪郭がはっきりしている間は過冷却水滴より成っている。これがぼやけてくると氷晶になったことを示し、Cbたちぐも、とする。氷結温度は大体負30℃位である。Cuといっても色々あるので、四種、一変種、二補助雲、五付属雲に分けて述べないとはっきりしない。山ではCuの発生、発達の状況をよく見ておくことが雷災防止につながる。

 第4章降水の物理は大体教科書の通りである。雲中の水滴は、曲率効果、溶質効果、の二つによって飽和蒸気圧が下がり、負30℃位までは過冷却水滴のままである。

雲粒が出来るには、その核となるエエロゾルが必要である。は視程一粁以下の場合、湿ったものをもやといい、乾いたものを姻霧という。水面上に発生する場合、水の方が高温の場合を蒸気霧、低温の場合を、移流霧という。温暖前線で、雨が冷気中で蒸発する場合を前線霧という。よく晴れた夜には、下層に放射霧が生ずるが、山ではしばしば雲海となる。
 雨滴のスケールは雲粒と百万倍も違うから、雲から雨が出来る訳ではない。水滴の飽和水蒸気圧は氷晶のそれよりも大きいので、雲中に過冷却水滴と氷晶が共存する場合、水滴は蒸発し、氷晶が急速に成長し雨となる。これをベルシェロンの氷晶説という。一方上昇気流により水滴が集まりながら、ゆっくり落下することによっても雨滴は出来る。これをラングミュアの付着成長説という。

日本の本州以北では殆ど前者で、南では後者も起る。ボンネグートは沃化銀が六方晶系であることから、人工降雨を考え、日本でも行われている。雪片の結晶系と気温、温度との関係は、中谷ダイヤグラムで示される。ソ連では大砲で雷と雹の防止が行なわれている。霧氷は樹霜(木花)、樹氷(エビノシッポ)、粗氷(透明)の3種に分類され、蔵王のモンスターは、雪、樹氷、租水の合成物である。

出席者 南川金一、斉藤かつら、小田木知江、石井美恵子、長谷田茂雄、星野由希子、重村清、榊原保志、中村純二、深谷諭、林基生、三栖寿生、高橋詞、前野十行、原田衛、城所邦夫、岡田安代

  なお、本講座に出席できない人のためにプリントを作ってありますので、プリント代(10円切手×回数)に郵送料(60円切手2枚)を添えて左記宛にお申込み下さい。
  〒165 中野区若宮3−15−13 大井正一

(大井正一)
山481 (1985/7月号)

UP

 山の気象と気象学(7)

日時1985年5月9日(木)
 講師 大井正一氏 場所 ルーム

 

雲の見方 積乱雲Gb たちぐも (1)雄大積雲の頭部が負30℃以下となり、氷化してぼやけたものをいう。(2)このぼやけた頭部が圏界面に押えられで、水平に拡がったものをかなとこ雲、あるいは偽巻雲という。Cbは一般に雷を伴なう。(3)ただし山での雷による遭難は必ずしもCbに依らず、Cuの小塊が尾根を越す時にも起るので注意が必要。(4)このような熱雷による事故は午後に限られるが、Cbによる界雷事故は夜や早朝にも起っている。

第五章 大気の力学 風向と風速 三杯風速計の風程を観測時間の600秒で割ったものが風速であるが、実際はエーロベンで自記している。三成分に分けて測るには超音波風速訃を用いる。上層風についてはレーウィンゾンデによる自動追跡を国内17ヶ所で毎日9時と21時に行なっている。

 運動方程式 大気中の或る時刻、或る地点の空気の密度は場所的にも時間的にも変化する。同時刻にυだけ離れた地点の密度の違いθρ/θχをオイラーの場所的変化、同じ場所で一秒間に生ずる密度の変化θρ/θτをオイラーの時間的変化と呼ぶ。
一つの気塊が実際に所を変え、時間的に密度を変える実質変化dρ/dτをラグランジュ変化と呼ぶ。
両者の関係を示すのがオイラー方程式で、全微分と偏微分の関係に相当する。さてニュートンの方程式によれば質量×加速度が力であるが、大気の運動に適用して見ると、質量が密度ρ、加速度が風速のラグランジュ変化 dυ/dτ、力が気圧の場所的オイラー変化θρ/θτに相当するもので両者を等号でつないだものが風の運動方程式となる

 連続方程式 大気中に考えた単位体積の箱の中の空気の変化はオイラー変化で計算されるが、オイラー方程式によってこれはちょうどラグランジュ変化になる。これを密度x風の発散に等しいとしたものが連続方程式である。
 風の運動方程式は上下、前後、左右の3ヶあり、これに連続方程式を加えた4ヶを解けば大気の流れすなわち各点での風向と風速が求められる。
 地上500mbではちょうど連続方程式の発散項が0となるので、非発散高度と呼ばれ、ここでは天気図か変形することなく東に移って行くので数日後の天気予報に利用できる。たとえば今年の4月は西谷で天気が悪く、5月は東谷で天気が良かった。毎土曜、毎日新聞には500mb天気図が掲載され、週間予報が行なわれている。

 転向カ コリオリの力 地球は一定の角速度ωで回転している。地上で大砲を打つと、砲弾は宇宙に対してまっすぐ飛ぶので、地球に乗っているわれわれがみると右にそれるように見える。この力を転向力といい、その大きさは緯度φの地点で2ρυωsinφで与えられる。風が等圧線に平行に吹くのはこの力ためである。
 これに対し、地面に接しで動く自動車などに転向力は働かないから、自動車の右のタイヤが余計にへる等というのは冗談に過ぎない。

出席者12名

                 (中村純二)
山483 (1985/9月号)

UP

山の気象と気象学(8)

日時1985年6月13日
 講師 大井正一氏 場所 ルーム


 6月13日午後六時半より、日本山岳会ルームにてレ前回に引き続き、スライドによる雲の見方と地衡風(教科書5章)について学んだ。

雲の見方 変種1 レンズ雲 層流が山を越える時に山岳波を生じ、その山の部分だけで凝結が起り、レンズ雲となる。風上で発生、風下で消滅し、全体としての位置は動かない、横から見るとレンズの形で、下から見ると翼形をしている。この変化は新幹線が関ケ原を通る時に見易い。変形重力からシア不安定係数を減じたものScをスコラ
ナンバーと呼び、このScが正の値を示す層だけにレンズ雲が発生する。レンズ雲は風が強い時に発生するから、上層の谷の前面と後面で発生し、この理屈からいえば、天気は悪くなる時と、良くなる時が半々でなければならない。


地衡風 大気の運動である風は一寸考えると大気圧力の高いところから低い方に向かって吹くように思われるが、地球上の人間からみるとそうはならない。それはわれわれが、自転している地球上から風の方向をみるからである。風の原動力は場所による気圧の差(気圧傾度力という)によるのだが、地球上からみた風の方向は地球の自転方向と逆方向に、見かけの力(転向力またはコリオリの力)をうけていることになる。メリーゴーラウンド上から回転面に水平方向に矢を放った場合、矢は放った方向からそれて飛んでいくように見えるはずである。気圧傾度力と転向力とはちょうど大きさが等しく方向が逆になることが証明できる(図参照、証明は教科書にある)。

 それで風の方向は等圧線に平行で、北半球では高圧側を右にみる方向になる。これが地衡風である。地衡風の風速は気圧傾度力に比例し、緯度の正弦に反比例する。すなわち等圧線か混んでいれば気圧傾度力は大きく、風は強くなる。また気圧傾度力が同じ湯合、緯度の低いところほど風は強くなる。

 地衡風は地上から千メートル以上のところで吹いているが、地表近くでは地表との摩擦力のためずっと弱くなる。この揚合は摩擦風と呼ぶ。富士山、岩手山などの山頂測候所で観測される風はほぼ地衡風といえる。

 一方山腹や稜線では風は一般に地衡風より強くなる。これは山の障害のためである。ビルの谷間で強い風が吹くのや、川の流れは川幅の狭いところで急なのと同じように考えられよう。富士山山腹、前穂吊尾根、北岳などで強風による遭難か生ずるのはこのためであろう。

 なお以上地衡風のことから、天気図を書く場合、風の矢羽根の側を低圧部とし、等圧線は風に平行に引くことが大切である(もちろん別の要因で常に完全に平行になるとは限らない)。(大井正一氏講義要項 高橋がまとめ)

 気象講座は9月12日(第十回)で一応終わります

<参加者14名>
高橋 詢

山485(1985/11月号)

UP

 山の気象と気象学(9)

日時1985年7月11日
 講師 大井正一氏 場所 ルーム

 雲の見方 乳房雲はCbの下面等に垂れ下がりヽ付近の強い上昇気流の反流として生ずる。天気が回復する傾向にある。波状雲は山の風下に生ずる重力波で、山のすぐ風下では流れと直角の方向に列ぶ傾向があり、遠くなると、流れの方向に列ぶ傾向がある。塔状雲は山の中の湖、河等の上空に多く、水蒸気の補給が少い場合に生ずる。雨足はCc、Ac、Sc等に生ずるが、一般に南成分が多く湿潤不安定の場合に多く、悪天候が長く続く前ぷれと見られることが多い。雲の穴の成因は未だ定説がない。

 温度風の概念は一般の人には解りにくい。例えば300mbと200mbの風をそれぞれベクトルで表わすと、上層のベクトルから下層のベクトルを引いたものもベクトルで、このベクトルのことを温度風という。測高公式の原理により、温度風は二層の間の等温線(厳密には等層厚線)に平行に低温側を左手に見て吹く。つまり、等湿線と温度風の関係は、等圧線と地衡風の関係と同じになる。温度風の原理により説明される最も著しい現象はジェット気流である。

ヒマラヤの北側のチベットには周極東風による寒気か溜ってコールドプールとなり、南側のインダス河沿いにはモンスーンが東から西に向かって、ウォームプールを作る。このために強い南北の温度傾度が生じ、上層200mbに中心を持つ強風帯即ちジェット気流が ヒマラヤの両側に生ずる。この二つのジェット気流はオホーツク海で合流し、100mb以上の強風となる。この気流は寒気と暖気の境界、即ち極前熱帯に沿って、北半球を取り巻いてはいるが、日本の上空ほど強いところは他にはない。冬は八丈島付近、夏は沿海州を通り、これが日本の真上に来る時が梅雨と霖雨に当っている。アメリカ大陸ではロッキー等の大山脈が南北に当っているため、ジェット気流の加速には全く寄与していない。もっと小規模に寒暖気流が合流しても。その上では温度風が強くなり、これを下層ジェットと呼ぶ。集中豪雨が起こるのもこのためである。一般に登山している時に風が極端に強くなることがあるが、これも下層ジェットで、間もなく寒気側に入って、風が収まれば好天を迎えることはわれわれが山で常に経験していることである。

出席者 赤羽昭夫、重村清、斎藤かつら、松丸秀夫、中村純二、及川由美子、木谷茂、三栖寿生、榊原保志

                  (高橋 詢)
山486 (1985/12月号)

UP


山の気象と気象学(10)

日時:1985年9月12日
 講師:大井正一氏 場所:ルーム


  9月12日(木)午後六時半より日本山岳会ルームにて
スライドによる富士の笠雲と傾度風、500mb天気図
などについて最終回の講義を大井正一会員より受けた。

雪の見方 富士山特有の笠雲。
(1)オホーツク高気圧の梅雨期に現われる多重笠
(1’)冬の乾燥した日の離れ笠 
(2)梅雨季の渦動吊し雲(Rotar) 
(3)秋に多い翼雲 
(4)富士山から吹下った気流が山中湖で水蒸気を吸収して不安定となり生ずるジャンプ雲、この時風下の西丹沢で集中豪雨が起る。
(5)冬、風の強い時現われる旗雲 この時滑落事故が多い。
以上の5種類に分類される(図参照)
これらは河口湖方面からよく観測され、吉田市からだと高積雲に見えることもある。
出現理由は
(1)西風が中ア、南アを越える間に摩擦で整流される。
(2)上層700mb以下が谷前面で西南西となり、黒潮暖流の水蒸気を運び込む。
(3)会報485号のスコラナンバーScが富士山頂の高さで正、その上下で負などである。

 傾度風 低気圧性の場合は コリオリカと遠心力を加えたものが、気圧傾度力と釣り合うので、風は益々強く等圧線は混んでくる。高気圧性の場合は、気圧傾度力と遠心力を加えたものが、コリオリカと釣り合うので、風は強くなれず等圧線は粗くなる。しかし山では移動高の前面で、すなわち晴れる前に風雪の烈しくなることが多い。

500mb高層天気図の見方 空気が周囲に散って薄くなるのを水平発散、集まって来るのを収束という。高気圧だと下層が発散、上層が収束、中層は下降流となり好天。低気圧だと下層が収束、上層が発散、中層は上昇流となり悪天である。低気圧の西に高気圧があるとき、収束域は始め下層にあり、次第に高くなる。これを低気圧の軸の傾きというが、軸が西に傾いていれば低気圧は発達し、東に傾いていれば衰える。これは高層天気図の見方の初歩である。一般に500mbの中層は発散と収束の中間に当り、非発散となるので、時間による変形が最も少い。これが500mb天気図が週間予報に適している理由である。

渦度 風の回転を渦度という。その値は低気圧性区域では正、高気圧性区域では負である。高層天気図の等高線を地衡風近似で読みとることにより、チャーニーの数値予報を出すことができる。
500mbでは発散がゼロのため長期予報に適し、バロトロピック(正圧)予報という。発散がゼロ
でない数層の天気図を用いて出す予報をバロクリニック(傾圧)予報といい、今日では11層を用
いている。(毎日新聞、毎土曜の朝刊参照)   

      −終ー

出席者 赤羽昭夫、石井恵美子、小川肇、重村清、高橋詢、中村純二、長谷田茂雄、前野十行、
松丸秀夫、三栖寿生、

なおプリント希望者は120円切手を同封し、大井会員まで

〔中村純二〕


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