Climbing and Medicine 会報 山 医療コラムより
720号

アスピリンの“血液さらさら“と登山

野口いづみ

アスピリンは解熱・鎮痛薬として有名ですが、医療上、それと同程度に重要なものに抗血小板(血小板凝集能抑制)作用があります。血小板の凝集が抑制されると、血液が固まりにくくなる、つまり、血液さらさらになります。そのためにアスピリンは、血栓を起こしてほしくない人(狭心症、心筋梗塞や脳梗塞の既往のある人)や、起こす危険の高い人(心房細動などの不整脈のある人)に予防的に投与されます。現在、抗血小板薬として使用されるアスピリンには、「バファリン81mg錠」と「バイアスピリン」などがあり、アスピリンの量は181100mgです。“血液さらさら”作用を目的とする場合には、1日あたり1錠を内服します。それに対して解熱・鎮痛作用を目的とするアスピリンには「バファリン330mg錠」などの商品があり、これを1日に5001500mg内服します。効果をあらわす血液中の濃度は、“血液さらさら”は12μg/ml、鎮痛は2550μg/mlで、“血液さらさら”は鎮痛の約25分の1と少量です。

病気のない方でも、脱水によって血液が濃くなると血栓ができやすい状態になります。登山では、汗をかいたあとに十分に水分を補給しなかったり、トイレが近くなるからと意識的に水分を摂らなかったり、あるいは前夜に深酒をすると、脱水状態になって血栓ができやすくなります。また、高所では一層、脱水をきたしやすいので、要注意です。血栓への対策としては、水分補給が第一ですが、“血液さらさら”量のアスピリンを内服することも予防になるでしょう。

欧米人は高所で血栓予防のためにアスピリンを内服しているのをみかけますし、20045月にエベレストを登頂した河野千鶴子さんもアスピリンを使っていたと聞きました。ただし、アスピリンは副作用として、止血させにくくさせるとともに、胃の炎症や潰瘍を起こす場合があります。特に日本人はアスピリンで症状を起こしやすいことが知られており、過量な内服は有害です。また、高所では胃潰瘍を生じやすいので、一層、注意が必要です。

“血液さらさら”を目的とした低用量のアスピリンは市販されていません。市販のアスピリン錠を分割して内服する人もいますが、量が不正確になりやすいので、医師に処方してもらうことが必要です。

なお、小児ではインフルエンザなどのウィルス疾患にアスピリを投与するとライ症候群という脳症を起こす場合があるので禁忌で、「小児用バファリン」は主成分がアセトアミノフェンになっています。成人用でも、「バファリン」という名称でアスピリンではなくアセトアミノフェンのものがありますが、その場合は“血液さらさら”作用はないので、成分を確かめることが必要です。