Climbing and Medicine 会報 山 医療コラムより
705号

高所の突然死

貫田 宗男

(30)高所の突然死

 高所で病死というと高山病が原因と思うのが普通であろう。しかし、最近の例をみると、急性高山病とされる高所肺水腫や高所脳浮腫が死因とは思えない突然死がほとんどのようだ。

 私の聞き及んだ限りでも、ネパールのアイランドピークのベースキャンプ(5100m)で突如、呼吸が荒くなり、4時間後に死亡した63歳の男性。
 アコンカグアではトップグループで登頂、下山中6800m付近で突如、背中の激痛を訴え3時間後に亡くなった67歳の男性。
 最近ではキリマンジャロでも5000mのキボハットを出発30分後に突如倒れこむように動けなくなり、2時間後搬出中に亡くなった60歳代の男性など、心血管系の障害によるものと思われる事例が目立つ。しかし遺族の同意が得られず、病理解剖されないため死因がわからないことも多い。
 また現地で解剖され、明らかに虚血性心疾患、脳血管疾患が原因と思われる場合でも、慣例からなのか高山病、肺水腫として解剖所見に記された例もあり、正確な死因は究明されないことがほとんどである。

 今日では高山病対策の知識、パルスオキシメーター、携帯加圧装置などの対策機器が普及し、さらに救助体制も整ってきており、経験豊富なリーダーやガイドが率いるグループで登山する限り、高所肺水腫や高所脳浮腫で亡くなることは稀になっている。

 このような高所での突然死への対応策は、まず登山前の呼吸器機能検査を含む健康診断の徹底であろう。60歳を過ぎればなんらかの、しかも時には複数の慢性疾患を持っているものだ。そのハンディをいかに受け止め、コントロールしていくかが問題である。

 残念ながら海外の高みを目指す中高年には未だその自覚が薄い。
 「山で死ぬのは本望」では済まない。
 僻地の高所での死亡事故は周りに多大な迷惑をかけ、遺族にとっても納得のいかないこともあるだろう。

 さらに現場での対応策も重要である。
 エヴェレストのベースキャンプにおいてさえ、衛星携帯電話などの通信技術が発達した今、発症から2時間以内の医療機関への搬出も可能となっている。短時間で専門医療機関へ移送できるかどうかが生死、またその後の後遺症の軽重にもおおいに関わることになる。

 これからは高山病のみならず、登山者の中高年化に伴う突然死の問題も大いに検討されるべきであろう。