Climbing and Medicine  会報 山 医療コラムより
693号

急性高山病(AMS)と二日酔い

中島道郎

(18)急性高山病(AMS)と二日酔い        中島道郎

 過日(02/12/11)、NHKの『ためして合点』という番組で、二日酔いは脳浮腫である、という話をしていたが、それと急性高山病(AMS)との関連について解説を加える。

 AMSは、高所に到達した後6〜9時間から72時間までの間に発症し、頭痛(必発)・倦怠・食欲不振・悪心・嘔吐・脱力感・意欲低下などの症状を呈する。この症状の本態は、脳神経細胞の酸素不足から進展した軽度の脳浮腫とそれに基づく頭蓋内圧の亢進である。発症が高所に到着直後ではなく数時間後であるところに注目されたい。それに対し、急速に高所に到達した直後に覚える、倦怠感・呼吸困難感・ふらつき、眠気・生あくびなどの症状は、過換気症候群、つまり一種の脳貧血症状である。これは生体が酸素不足状態下に生理機能を保持しようとする正常な生理学的反応(高所反応)であって高山『病』ではない。しかしそれにも限界があり、限界を超えて生理機能が破綻した状態がAMSである。

 生命の基礎単位である細胞は、細胞膜を介して、生命保持に必要なあるいは不要な物質を出し入れするが、その選択にはエネルギーを要し、ために酸素が消費される。酸素不足だとその機能が低下し、例えば余分な水が細胞内に貯留する。それが浮腫である。脳は酸素不足に一番敏感な臓器ですぐに浮腫を来たし、結果頭蓋内圧が亢進し、頭痛その他上記の症状を来たす。その軽症をAMSといい、重症を高所脳浮腫という。

 一方アルコールは脳細胞の酸素の取り込み機能を妨害し、急性脳低酸素症を来たす毒物である。それが酩酊。もっともアルコール分子本来の化学作用も加わり、単なる脳低酸素症よりは修飾されてはいる。アルコール分解酵素の作用で、普通翌朝には症状は消失するが、飲酒量に分解酵素の働きが追いつかず、脳の低酸素状態が数時間も続くと、脳浮腫に進展する。これが二日酔い。
 二日酔いとAMSは症状が酷似し、かつ共にそれが翌朝になって出現する理由がこれで理解できたと思う。
 それゆえ二日酔いの一番の治療薬は酸素で、デマンドバルブ付顔面密着型マスクを用い
て純酸素をものの10分間も吸入すれば著効を呈すること請合いである。