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登山者の山に対する基本的な心構えは、当会発行の1955年版「山日記」に記載の「松方三郎」元会長による『登山の注意』があげられます。最近は入山者の増加と,著名な山への集中により、沢水が気軽に飲めなくなったとか、道の真ん中にトグロが巻いているのを見かけたとかを見聞きすることが多くなりました。
富士山や早池峰山に限らず山のトイレ問題は、もはや放置できなくなっており、中でも登山者のマナー低下が無視できません。
この問題に対する行動指針の一つとして、登山者の立場から見た山のトイレマナーノートを作成しました。「マナーノート」にありがちな『・・・すべからず』集的な表現を避け、登山者自身の啓蒙と意識改革に期待し、山岳環境保全を図ってゆきたいと思います。会員諸兄には「山岳」に同封してお配りする予定ですが、ルームにも一部置いてあります。事前に必要な方はお申し出下さい.
また非売品ですが会員以外でノートを希望される方は、印刷代70円、送料2冊まで90円をご負担ください。
〒206-0035 多摩市唐木田1-30-9
小西奎二(こいしけいじ)
(郵便振替00150-1-72721、Fax.042-585-8636)へ。
登山教室などで多量の場合はご相談ください。またマナーノートに対するご意見・お気づきの点は上記Faxまでお寄せください。
山と人のかかわり
人が生きていくためにはいろいろな社会基盤の整備が必要ですが、それらの整っていないところが山です。そこはもともと動物や植物たちの生活の場です。
登山者の方が侵入者であることを自覚し、山の中にまで都会の便利さや快適さを求めず、山も自分の庭先と同じに考えて、謙虚な気持ちで、責任を持って行動しましょう。
山に入るまえに
日本は飲み水に恵まれ、その中でも山の清水のおいしさは格別で、登山の大きな楽しみの一つになっています。一汗流して、冷たい清水にたどり着き、ぐっと飲み干すときの感動は、何ものにも換えられません。
この世界的にも恵まれたすばらしい自然の恩恵を、われわれの後の世代に何とか引継ぎたいものです。
しかし最近は、入山者の増加と登山者の心ない行為によって、悲しいことに山のわき水や沢水も気軽に飲めなくなっています。とかく下(しも)の話≠ヘ疎(うと)んぜられますが、“食べる”と“はいせつ排泄”は避けられない行為。入山者が少なかった時代には許されたことも、もはや許されなくなっています。一人ひとりが自己責任のもとに、自然に負荷を掛けない山歩きをすることがまず求められます。
このノートは山中での“トイレ”について、登山者の立場から、山に入るすべての人が最低限守ってほしいマナーを記しています。
※「フィールドマナーノート」の姉妹編です。あわせてお読み下さい。
山のトイレ問題は、設備を整えればすべて解決するものではありません。この問題を引き起こしている
“登山者のマナ−と積極的な協力が最も大切”で欠かせません。
山地では、トイレの設置と維持が非常に困難です。トイレを作る場合、場所の確保や資材の運搬、建設など平地と較べてはるかに厄介です。また、その後の設備の維持や汚物の処理に必要な労力と水やエネルギーの確保も非常に難しい現状です。
それでも最近は、環境省や地方自治体等の後押しと、山小屋経営者の方々の努力によって、山のトイレもかなり整備されてきました。
しかし、問題の根本は登山者自身にあります。
日常無造作に流している紙も、山中では処理が非常に厄介で、写真のような光景が見られます。紙の持ち帰りを通して山のトイレ問題を考えてください。
使用済みの “紙”はすべて自宅まで持ち帰りましょう。
- 日帰り登山でも、紙持ち帰り用の密閉型ビニール袋を必ず携行しましょう。(容器として、牛乳やジュースの紙パック、防湿加工した菓子袋なども有用です)。
- 汚れた面を内側にし、また紙を二重にするなどして、ファスナー付きのビニール袋などに入れれば、臭いも汚れもほとんど気になりません。
- 大・小用を合わせても、一日に出る量はそんなにかさばりません。
- ワンボックス型のザックは、外に結び付けるか、簡易ポケットなどを工夫しましょう。
トイレから溢れでた紙の“白い川”
写真提供: 富士山エコ・トイレ勉強会
- “紙”は水に溶けません。紙を水に入れてかき混ぜても、紙すき前の繊維状にほぐれるのみで、そのまま地表に残ると腐りにくく、“白い川”になったり散乱して非常に目立ちます。
- ティシュペーパーには、ナイロン繊維などが入っており分解しにくいので、山での使用は避けましょう。
トイレのある場合
- 使用料、チップは必ず払いましょう。
通常,宿泊の場合は料金に含まれますが、それ以外は有料と思ってください。
- 小屋の指示や利用のルールに従いましょう。
- 紙の分別、持ち帰りなどに進んで協力しま しょう。下着など異物は絶対に捨てない。
登山者にとって山ではどんなトイレでも、ありさえすれば非常にありがたいことです。
“ありがたく使わせていただく”という感謝の気持ちが大切です。
なお、山中に水洗トイレまで望むことは、山小屋や地方自治体に過大な設備投資を強いることになり、結局は自然破壊やコスト増大となって登山者に跳ね返ってきます。
トイレの無い 野外や避難小屋では
- まず、麓で用を済ませてから入山し、山中ではしないのを原則としましょう。
- 排泄場所は、沢や水辺からできるだけ離れ、‘水場’の上流は絶対に避けましょう。
地形や植生の状態にもよりますが、一つの目安として、水際から少なくとも20〜30mは離れましょう。
- 植物が生い茂って落ち葉があり、雨水で流失の恐れのない地点を選びましょう。
植物の少ない砂礫地や岩場は避けて下さい。
- スコップを持参し、周りの植生に気を付けて、汚物が隠れる位の穴を掘り、土をかけるなどの後始末をし、紙は必ず持ち帰りましょう。
- 雪上でも雪穴を掘って埋めましょう。
- 美味しい清水や自然の景観を守ることを念頭に、安全で可能な限り流れから遠ざかり、完全な埋没処理をしてください。
自然には、動・植物などの有機物を腐らせ、分解して土へ返す大きな浄化能力があります。植生の豊かな広葉樹林帯などでは、大きな自然のはたらきを期待できますが、植相の貧弱な高山帯の自然は脆弱(ぜいじゃく)です。 また一人ひとりのわずかな量でも、一カ所に集中すると処理しきれず、生態系や環境に大きな影響を与えます。尿も多量に集まると問題になります。
百名山などで知られた山に集中するのは避けましょう
- 山のトイレ問題は、まず自然の持つ浄化能力を有効に活用することが第一歩です。
- そのために、自然のはたらきを損ねない範囲で、登山者は一つの山に集中せず、オーバーユーズとなる入山は極力避けましょう。
静かで楽しい“イイ山”は一杯あります。
山の“トイレ”は、いろいろ大きな問題を抱えており、簡便で完全な対処法は見あたりません。ようやく定着してきたゴミ持ち帰り方式に準じて、「屎尿(しにょう)そのものも登山者によってすべて持ち帰る」ことが最終目標です。
しかし、これは途中でのポイ捨ては避けられそうになく、新たな問題が心配されます。さらにトイレ自体の改造、持ち帰り容器の開発、麓での受け入れ体制の整備やその焼却による問題など、その導入は非常に厄介です。今すぐ大多数の合意の得られる現実的なトイレ問題の解決にはなりそうにありません。
まず、責任を持った対処と使用済み紙の持ち帰りを徹底し,一カ所に集中した登山をしないで、マナーを守ることが重要です。
山はみんなのもの 山にありがとうを!
山は、山に命を託すすべての生き物のものであり、それらが緑の森を育(はぐく)み、清流を生み出していることを忘れてはなりません。登山者自身に“山に入らせていただく”という控えめな態度が求められます。
みんなの小さな心遣いの積み重ねで、美しい自然を守り、美味(おい)しい山の清水を保ち、気持ちのよい、楽しい山旅がいつまでも続けられることを願っています。
あとから登って来る人たちの喜ぶ顔が見たくて!
あとがきにかえて
1991年および2000年の「山の雑排水やトイレ問題」を扱った山岳環境保全シンポジゥムを経て、国際山岳年にあたり,登山者の立場からみた山のトイレ・マナーノートをお届けします。環境問題の主役は‘人間’ですが、感覚的に納得できてもなかなか実行に移しにくい分野です。どうすればより正しく理解して頂けるか、またどの程度流れから離れれば安全か、さらにそれをどう表現し、お伝えすれば良いかは最後まで議論が分かれ、腐心しました。
全体をお読み頂いて、「あの美味しい清水を後世に」という山屋の集まりである日本山岳会員のひたむきな想いをおくみとり頂ければ幸いです。なるべく‘水場’に着いてから探し出すのではなく、たとえ沢筋を歩いていても、ちょっと早めに気を付ければ“適地”はすぐ見つかると思います。大きな負担の伴う「本体の持ち帰り」を検討しなけばならなくなる前に、どうすれば‘金名水・銀名水’を守れるか、一人ひとりの小さな配慮・工夫を期待し、いつか大輪の花となって咲き乱れることを願っています。お気づきの点、建設的なご意見をもとに、さらにより良いものとしてゆきたいと思っています。

イラスト 菅沼 満子
2002年7月1日 発行
発行・著作権者 社団法人 日本山岳会
代表者 会長 大塚 博美
発行所 社団法人 日本山岳会 自然保護委員会・科学委員会
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